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嘘の自己紹介

課題で自己紹介の記事を書けと言われました。
でも自己紹介は苦手です。

自分の言葉で自分を説明する。
自分を説明する時に使う言葉を、自分で自由に選択できる。

「高校を二回退学しました……」
「600人規模の赤十字ボランティア団体で会長をやっていました!」
「趣味は散歩と読書、好きな歌手は米津玄師です」

上記の3つは実際に私がよく使う”自己紹介”の言葉です。
この3つは全て本当だけれど、全てほんとうではない。
自己紹介は、相手に抱いてほしい印象によって、自分を構成する数多の要素からその場に都合の良いものだけを恣意的に選び取ることができます。
しかも、べつに本当でもほんとうでもない言葉だって言うことができます。

「23歳です」「2つ上の兄がいます」
この2つも私がよく使う自己紹介の言葉。これはほんとうだけれど本当ではない。
自己紹介の際に選択される言葉は全て装飾で、装飾ということはつまり本質的に嘘であるということ。だから自己紹介は苦手です。

そう、とにかく私は自分の言葉で自分を説明するのがイヤなんです。
常に嘘をついているような後ろめたさがあるから。
だから今回は私にとって最も親しい3人の友人に他己紹介をしてもらいました。
友人の言葉の方が信用できるし、その方がほんとうのような気がする。その方が、罪悪感が薄れる。
そうしてこの記事を、自己紹介とすることにします。


他己紹介の方法

山下は中学の同級生。

このようなLINEをみんなに送り、一応他人に紹介する体で他己紹介文を書いてもらいました。
テーマなどを聞かれたら「なんでもいい」と一点張りをして、言葉の選択肢を狭めないようにしました。

それと、それぞれ記事に出せる自己紹介用の写真を持ってきてもらいました。

一人目 山下

山下。謎の自撮りを送ってきた。

山下は中学時代の同級生で、今は一浪して明治大学に行っています。
中学卒業後もずっと仲良くしていて、今でも月一では会う親友の一人です。
他己紹介を頼んだらすごく長文で書いてくれました。うれしい。

僕と河辺と最初に仲良くなったのは中二の秋です。中二の夏休み明け頃、体育の時間で河辺が体調不良になった時に、たまたま近くにいた僕が保健室まで送ったのをきっかけによく話すようになりました。
今回河辺を紹介するというお話をいただいて、河辺の性格をなんて説明しようか考えていたのですが、河辺のこだわりの強い性格は昔から本当に変わってないと思いました。うちの中学校は普通の公立中学なんですが、クラスの中で河辺は中学受験をしてたという噂がありました。だから当時は、本当かどうか分からないけどなんとなく皆から勉強ができるというイメージを持たれていました。中二の一番最初の試験で国語で100点を取った人が一人だけいると先生が言って、皆が絶対河辺だと言って騒いで河辺の点数を聞きに行ったら、河辺は自分じゃないと言い張っていました。後で聞いたら100点なのは河辺で合っていたのですが、皆に点数を知られても仕方がないと言って隠していたのを知りました。ですが数学で100点を取った時には全く隠していなくて、理由を聞いたら、「数学は人に教えた方が身に着くから、数学が得意だと思われてた方が得」と言っていたのを覚えています。こういう色々考えて自分が何をして何をしないか選ぶ河辺の性格は昔から変わってないと思います。
最近河辺をカラオケに誘ったんですが、山下とカラオケに行っても意味がないと言って断られました。カラオケは誰かと仲良くなるために行くものだから僕と行っても仕方がないそうです。大学では仲良くない人をカラオケに誘っても違和感がないように歌うのが好きと言う立場を取ってるけど別に本当はそうでもないと言っていました。
そういえば、河辺は昔から独自の言葉を使う奴でした。今は「立場」とか「確信」とかをよく使ってるみたいですが、中学の頃は「上る」とか「仕方ない」とかの言葉を気に入ってて、クラスで少し流行っていました。
河辺は今でもなんとなく勉強ができるイメージはあるんですが、それ以上に謎のこだわりがある変な奴だと思ってます。

二人目 なつ

なつ。インスタで自撮りを上げるタイプの女子。

なつは幼稚園と小学校が同じ幼馴染で、一番古い友人です。
中学校は私立の雙葉中学校に行って、今は多摩美術大学の統合デザイン学科に通っています。
いつも飄々としてるんですが、なんだかんだ賢いからいつも助かってる友人です。

河辺宏太の幼馴染のなつです。河辺さんに自分を紹介する文章を送れと急に言われたので、何も決めてないけどとりあえず書き始めてます。なんでもいいって言われたけど、記事にのせる文章で流石に悪口を言う訳にはいかないので困ってます。だから小学校の時にしょっちゅう仮病でズル休みしてたとかは言わないでおこう…
でも宏太は小学校の時から結構真面目だったなと思ったりしてます。小5の時から一緒に塾に通ってたんですが、宏太がなんか塾に行けなくなっちゃって、その時に塾に行けてないことにすごく落ち込んでたりしてて、そういうなんだかんだ真面目なところは今でもあると思います。私がデザイン科に行ったから宏太はすごく興味持って、一緒に服を作ったり3Dプリンターで障害者のためのグッズを作ったりしました。大学に全然行ってないとか宏太はイキって言ってるけど、私も別に楽しくないなら行かなくていいと思ってるし、障害とかデザインとか自分が興味持ってやれることに対してはほんとに真面目だと思います。
最近は迷走してきて急に電話で愛してるって言ってきたりするんですけど、そういうのも真面目さかなーと思ったり。本人は真面目って言われるの嫌がるけど私は本当にそう思ってるし、嫌がってるのも面白いからこんな感じに紹介しときます。

三人目 りんちゃん

林太郎だからりんちゃん。焼き肉行ったらしい。

りんちゃんは大学からの友人で、同じ文芸部内で仲良くなりました。
今は大学では一番仲の良い友人で、いつも一緒にいます。

河辺と最初に出会ったのは二松学舎の文芸部で、新歓の文章会で初めて顔を合わせました。河辺の文章が割と良くて、本人も文学とか芸術をちゃんと勉強しているようで、二松にもこんな奴いるんだ!と思って飲みに誘ったのが初めです。
河辺は人懐っこくて色んな人誘ったり、もしくは急に叫ぶみたいな頭おかしい行動とかをしてる割に、実はちゃんと自分なりにかなり真剣に色々考えてるところが好きなんですよね。河辺の家に行ったときにノートの束を見せてもらって、今までの思考の記録とか作品のマインドマップとかがかなり詳細に書いてあって、しかもしっかりと保存している。アウトプットの質が本当に高い。けれども普段おちゃらけててその感じを見せない。そこが本当に凄いと思ってます。
河辺と知り合ってまだ一年くらいですが、こんなに仲良くなれた人は久しぶりで、一生付き合っていくんだろうなという確信があります。
なかなかいないぜこんな奴。うれしー
河辺、愛してるよ!




他人の言葉で自分を語ってもらうと、他人の言葉によって私が象られ、他人の言葉によって輪郭が縁どられます。私にとってはそれが心地好い。

ですがこれもやっぱり記事のために寄せた装飾の言葉で、ほんとうではない。
装飾ということはやはり、本質的に嘘なのです。
私は自己紹介から逃げ続けることで、ほんとうの自己紹介をしようとしているのかもしれない。

他人の言葉、それを信用しながらも、この記事はどうしても私の記事で、私に選択権が与えられた言葉たちを載せているだけです。

噓はなるべくつきたくない。だから自己紹介は苦手です。

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