泣き虫な少年

道を歩いていると啜(すす)り泣く声が聞こえる。
ふと気になって声のする方に足を進めると
路地裏で、人目がつかない場所で少年が一人泣いていた。

どうしたの?と聞いても上手く答えれずに
咳や涙ぐんだ声で何も聞き取れない。
少し頭を撫でて、大丈夫だよ。と安心させるように優しい声で伝える。
すると、泣きながらどこかに走り出し見当たらなくなってしまった。

別の日。また少年を見つけた。
今度は公園で大きな声を出して元気いっぱいに笑って皆と楽しんでいた。
その中では一際目立つ少年。とても1人で泣いていた子とは思えなかった。

別の日、また、啜り泣く声が、今度は夜の公園のトイレの裏、また人目のつかない場所で泣いていた。今日も、頭を撫で、大丈夫だよ。そう伝える

その次の日、そのまた次の日も
色んな場所で一人で、泣いて、泣いて、その度に大丈夫、きっと、大丈夫だ。と伝える。
お節介かもしれない。だけど
伝えないと、この子には、優しくしないといけない気がして、僕は今日もその少年を探していた。

不意に鳴り響く携帯の着信。
最近上手くいっていない彼女からだ。
内容は“別れたい”の一言だった。
空からは自身の涙の代わりに雨が降り注ぎ
服が雨で濡れようが、携帯が濡れようが
関係なかった─。

俺は走った、ただ走った。無我夢中に走った。
傘をさした周りの人は嗤(わら)っていたり
心配そうに見ていたり。
人の目がいつもより気になって、胸が張り裂けそうになって、気が付けば............路地裏にいた。

すると、啜り泣く声が聞こえる
いつも聞く声よりもっと酷く、もっと低く、もっと醜く。そう。雨の中自分の声だけが聴こえていたんだ─。

すると、高い水滴の音がその声に混じり、頭に違和感を感じる。
『だ、大丈夫、大丈夫だから』
不器用そうに撫でる手、緊張して強ばった高い声。視界に移る子供用の長靴
いつもの、少年じゃないか。
俺はなんて事をされてしまっているんだ。
人気(ひとけ)が少ない場所を選んだのに
情けない。俺は大人なのに、子供相手に....だけど。
その手からは、優しくて、暖かく、満たされる気持ちが溢れ出していて
思わず悲しい涙から、嬉し涙に変わってしまっていた───。

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