DIVA epilogue 【豆島圭さまのための小説】
たった一晩で世界が変わった。大歓声の会場を後にし、ふらつきながら楽屋へと引き上げる。途中、スタッフが何人も私のもとへ駆け寄り、何かを私に告げた。賞賛の言葉だろうか。全てを出し切った私に、彼らの言葉を理解する体力は残っていなかった。
楽屋の椅子に、倒れ込むようにして座る。ゾーンに入っていたことを、やっと今になって認識した。しばらく夢と現実との境目を彷徨い、私は、眠りに落ちていった。
「奏?」
肩を揺さぶられ、目が覚めると、オーナーが、スポーツドリンクを手に、私を見下ろしていた。
「……。すみません」
「好きなだけ暴れたんだって?」
「はい……ありがとうございました」
オーナーに手渡されたスポーツドリンクを、一気に飲み込んでむせた。
「俺、お前が前座やってた頃から、必ず化けるって思ってたから。まあ、今言っちゃっても、後出しジャンケンだけどね」
「オーナーのお陰です。本当に、ありがとうございます」
「これ。奏に渡してって、客に頼まれた」
オーナーから手渡されたのは、一冊のリングノートだった。
「セッションが終わってから、向かいのコンビニで買って、皆で書いたんだって」
手に脈動を感じながら、頁を捲った。
『こんなジャズは初めてです。踊りました。感動しました』
『頭に入ってくる言葉はとても悲しいけれど、音楽として昇華されている』
『言霊ってこのことですか』
気づかぬうちに、涙が溢れていた。
ノートの中に、名前を見つけた。
待って。
待って待って待って。
——K. Mameshima
次の瞬間、私は、後先を考えることなく、一般客用の入場口へ、走り出した。
<本当に、終>
この部分、本編として書き残すかどうか最後まで迷って、「補欠じゃない」で終わろうと思ったのですが……。公開した後に、やっぱり公開しておきたいという思いが溢れ、エピローグとして、ひっそりと公開させていただきました。
奏は、豆島さまに向かって走り出しました。
きっとどこかで豆島さまに追いつくかもしれません。
その時は、温かい目で見守ってあげてください……!
本作DIVA 1-3話目はこちらです↓
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