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あなたのための短編小説、書きます。

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お題を提供して頂き、提供者様のためだけの短編小説を書く企画、「あなたのための短編小説、書きます」にて執筆した記事をまとめています。
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記事一覧

DIVA 3/3 【豆島圭さまのための小説】

 指定の位置に立ち、スポットライトを浴びると、会場がどよめいた。 「また前座?」 「エルは?」 「誰? ギャルじゃん」  アナウンスが、エルの代わりに、私、奏がメインを務めることを告げた。ため息をつき、席を立とうとする客もいる。  待って。聴いて。  ジャズバンドに目で合図をする。バンドは一流。ドラムが拍を刻み、ウッドベースが会場を鉄骨ごと揺さぶる。ピアノがランダムな雨粒のように鳴り、サックスが、甘く歌い始めた。    颯 ねえ颯    行かないで颯    どこに

DIVA 2/3 【豆島圭さまのための小説】

 左手で持ったスマホの画面を親指でスクロールする。noteという媒体で、豆島圭さんの小説を読みながら、私は出番を待っている。言葉を追っていないと、この非常事態に耐えられない。商業出版され、書店に並ぶ本もいいが、noteでは、書き手の生の声を直接拾える。読書なしでは生きていけない人間としては、作者のあとがきや、コメント欄でのやりとりが、欠かせない活力源となっている。  豆島さんの小説には、人間のありのままの姿が描かれているから、好きだ。見てはいけないものを目にしてしまったかの

DIVA 1/3 【豆島圭さまのための小説】

 いつもの悪夢にうなされ、ぐっしょりと汗をかいて、夜が明ける前に目が覚めた。荒く呼吸をする。少し落ち着くと、ゆらめくカーテンをそっと開け、明け方の月を眺めた。暑い夏が、終わりかけていた。  日中と夜間の仕事を掛け持ちして、私はこの都会で、何とか一人分の食い扶持を稼いでいる。古書店でのアルバイトを、店主の厚意で夕方までに切り上げ、次の現場に向かった。この街で一番大きな、老舗のジャズバーへ。  通用口の重い金属扉を押し開け、楽屋へとスチールの階段を下りる。黒いヒールを履いた

三人の物語 一人目 ユアン・エイル 小学生【コッシ―さまのための小説・連作短編】

 いつものまがりかどには、おおきなさくらのきがある。越川叶芽くんは、きょうも、めをきらきらさせて、さくらのきにてをのばしていた。みじかくて、さらさらな、叶芽くんのかみのけ。わたしは、いつもの、ながいみつあみふたつ。叶芽くんをみて、きゅっとくちをむすんだ。わたし、きょうは、かなしくても、ぜったいに、ぜったいに、なかないんだから。 「叶芽くーん! おっはよー!」  わたしは、さんねんせいで、叶芽くんは、よねんせい。てをふって叶芽くんのとなりにたつと、わたしのしんぞうは、きゅう

三人の物語 二人目 前田日向 会社員【コッシ―さまのための小説・連作短編】

 親友に会うために、午後から有休をとった。会社を出て、待ち合わせのカフェに行く。道すがら、通りがかった公園の桜が、枝からこぼれるほどに花を咲かせ、風に揺れていた。もうすぐ、三月も終わりか、と呟き、陽光の中でぐうっと伸びをする。  カフェに、親友、越川和音を見つけ、走り寄った。私に気付くと、和音の肩で、真っすぐに伸びたきれいな髪がさらりと揺れた。和音のトレードマークの、凛とした笑顔が見える。 「和音、お疲れ!」 「おー! 日向もお疲れ!」  今日は、息子の叶芽くんの学校で

三人の物語 三人目 逢坂園子 精肉売り場店員【コッシ―さまのための小説・連作短編】

 外はこの春いちばんの陽気で、桜も例年より早く満開になったそうだが、スーパーの生鮮食品売り場はひんやりとしている。私、逢坂園子五十六歳は、精肉売り場の敏腕店員だ。お客さんに、納得いく価格で、最高のお肉を提供することが、私の使命だ。この仕事は、天職だと思っている。バックヤードから、さっき切り分けてパック詰めしたばかりの新鮮な肉を、カートに乗せて運ぶ。夕方の混み合う時間に合わせて、品出しをするのだ。  牛肉売り場に、常連のお客さんが立っている。ははあ、この時間にここにいるとは。

締め切りました!【あなたのための短編小説、書きます。】第三期!

こんにちは。樹立夏(いつき・りつか)と申します。 私が主催する私設企画、【あなたのための短編小説、書きます。】の募集についてご案内させてください。 この企画は、お題を募り、私、樹が、お題に沿って、お題を下さった方のためだけの小説を書かせていただく、という企画です。今年2023年2月、5月に次いで、第三期の実施となります。 第一期、第二期では、光栄なことに、合計5名の皆さまからお題を頂戴しました。 第一期:ピリカさま、オラヴ153さま、虹倉きりさま 第二期:すーこさま、江

【締め切りました!】企画「あなたのための短編小説、書きます!」Season2募集!

こんばんは。樹立夏です。 この度、再び企画募集をさせていただきます。 今年2月に募集をさせていただいた「あなたのための短編小説、書きます!」が、帰ってきました! この記事をご覧になっているあなたのための短編小説を、書かせて下さい。 先着2名様に、無料記事にて1000文字程度の短編をお贈りいたします。頂くお題と、出来上がった作品は、noteで公開させていただきます。お名前は伏せて、匿名で、お題と作品のみ公開することも可能です。 前回、光栄にも3名様からご依頼を頂きました。

ステイ|江川 知弘さまのための小説|企画【あなたのための短編小説、書きます】

こんばんは、樹立夏です。 私設企画【あなたのための短編小説、書きます】season2第二弾、江川 知弘さまからご紹介いただいたコラムを原案として、小説を作りました。 原案とさせていただきました、江川さまのコラムはこちらです↓ それでは、本編をどうぞ! *** 題:ステイ  誰もいない部屋のドアを開ける。  闇の冷たさに、また心が一重、凍りつく。  床に置いた間接照明だけを灯して、ソファに倒れ込んだ。  今日も、なんとか生き抜いた。  ふうっと息を吐き、壁の時計を眺

青は扉|すーこさまのための小説|企画【あなたのための短編小説、書きます】

こんにちは、樹立夏です。 私設企画【あなたのための短編小説、書きます】season2第一弾、すーこさまからのお題「青」から小説を作りました。 それでは、本編をどうぞ! *** 題:青は扉  初夏の午後、森に散歩に出かけた。 いつもの小道を抜け、小さな清流を目指す。 鳥たちが、美しい調べで歌いあっているのは、夏の歌だろうか。自然と笑みがこぼれる。  流れの傍らに、見たことのない絵があった。イーゼルに置かれた、抽象画。青の絵だ。この青は、空の青だろうか。それとも、海の青だ

匿名でも受け付け中![企画]あなたのための短編小説、書きます。

先日受付開始した企画、『あなたのための短編小説、書きます。』 お題をいただけたら、ありったけの想像力で、あなたのためだけの短編小説を書きます。 匿名でのご応募も承っております。 『クリエイターへのお問い合わせ』からご応募いただけましたら、お名前を伏せて、出来上がった小説を公開いたします。 詳しくは、下記の記事をご覧ください! ぜひ、お題をください!

[企画]あなたのための短編小説、書きます。

こんばんは。樹立夏です。 この度、初めて企画募集をさせていただきます。 この記事をご覧になっているあなたのための短編小説を、書かせて下さい。 先着3名様に、無料記事にて500文字~1000文字程度の短編をお贈りいたします。頂くお題と、出来上がった作品は、noteで公開させていただきます。お名前は伏せて、匿名で、お題と作品のみ公開することも可能です。 1.「お題」をください。 この記事のコメント欄に、お題をご記入ください。お名前を公開しない、匿名でのご応募の場合は、『クリエ

虹倉きり様に、小説を朗読して頂きました!|企画『あなたのための小説、書きます』より|

この度、私、樹立夏の初めての企画『あなたのための小説、書きます』にて執筆させていただいた、虹倉きり様への小説「言の葉」を、なんとなんと、ナレーターでいらっしゃる虹倉きり様ご本人に朗読して頂きました! 病気で声を失ったピアノ弾きの少年と、朗読を愛する少女が、放課後のひと時に、ピアノと朗読を通じて心の交流をするお話です。 まずはぜひ、原稿を目で追いながら、朗読をお聴きください! 樹執筆、原稿です↓ そしてそして、虹倉きり様の朗読です! なんと、Youtubeにも!↓

【企画】あなたのための小説、書きます|第三弾、虹倉きり様からのお題『朗読』|

こんばんは、樹立夏です。 初めての企画、「あなたのための小説、書きます。」シーズン1。 ありがたいことに、定員の先着3名様からお題を頂くことができました。 第1回目、ピリカ様からのお題で書いた作品がこちらとなります。 第2回目、オラヴ153様からのお題で書いた作品がこちらです。 そして、今回は、虹倉きりさまからのお題、「朗読」となります。 エッセイや小説の執筆と、朗読をされているクリエイター様です。 朗読の企画も多数実施されております。 その朗読を拝聴し、今回の作品を