ショートショート 天ぷら不眠


再婚した相手の男性には連れ子がいた。
母親と思ってもらうため、努力を重ねたのだが、この子は私を母親とは認めてくれなかった。

「来週の運動会私も行ってもいい??」
「うん…」
「お弁当はなに食べたい??ジュンくんの好きな物作ってあげる」
「なんでもいいよ」
「食べたい物ないの??私、ジュンくんの応援するため、お弁当頑張っちゃう」

料理に自信があったわけじゃないが、ここは母親に近づくチャンスだと思った。

「天ぷら」
「天ぷら??」

私は仰天した。
小学4年生の子供が天ぷらを運動会で食べたいなんて。
唐揚げなどを想像していたのだが。
まぁ油を使うのは一緒だし、作ってみるか。

私は夜な夜な天ぷらを練習し始めた。
サクサクした衣作るにはどうするのかインターネットで検索しながら天ぷらを作った。
試行錯誤をしながら作った天ぷらは私なりには上出来だったが、徹夜を繰り返してしまった。

「お弁当の時間となります。みなさん家族とお弁当を食べてください」

アナウンスが流れるとジュンくんが龍也さんと私のもとにやってきた。

「お母さんがジュンが食べたいって言った天ぷら作ってくれたぞ」
「うん…」
「気に入るかな」

ジュンくんはゆっくりと気合の入った天ぷらを食べる。

「…おいしい」
「うんうん。たくさん食べてね」

満面の笑みで応えてくれた。ジュンくん。
こんな笑顔を作れるんだ。

「午後は僕とお母さんと二人で障害物競争参加してくれる??」
「もちろんだよ」

メイクで隠した、目のクマが出てこないか心配だったけど、今日はぐっすり眠れそうだ。


たらはかにさんの毎週ショートショートに参加しております。
お題 天ぷら不眠


  

最後まで読んで頂きありがとうございました。

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