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黙示録の勇者たち

2022年3月11日、有名なバッタ研究者である前野ウルド浩太郎氏が、下記のようなツイートを残し話題になりました。東アフリカで発生していた大規模な蝗害が、二年以上の年月を経てようやく沈静化したとのことです。

この事がきっかけで、前野氏の著作である「バッタを倒しにアフリカへ」という本を読みました。

前野氏は「バッタに食われたい」という夢を持ち、単身アフリカの一国モーリタニアへ飛び、緑色の全身タイツを着てバッタの大群に飛び出す奇行をとります。
またあまりのバッタ好きが高じて14年間バッタに触り続けた結果、バッタアレルギーを発症し、バッタに触られるとひどい痒みに襲われ、それでも研究をやめないという筋金入りのバッタフリーク……いやもうバッタキ○ガイといっても過言ではないでしょう。

ですが、研究費の支給が途絶えても現地で研究を続ける真摯な研究者でもあり、モーリタニアでの篤い信用を勝ち取っています。ミドルネームの「ウルド」は「○○の子孫」という意味を持ち、現地研究所の所長より授かったものなのだとか。


そもそもバッタ研究はなぜ必要なのか。日本にいると理解しづらいですが、バッタの害、つまり蝗害は未だ人類の手で制御も防御もできない「災害」であり、その規模は想像を絶します。

これまで観測された最大規模の群れは幅160km、長さ500kmで、その面積は日本の本州の3分の1に達するとのこと。その巨大な群れが1日最大100kmの距離を移動するとのことで、殺虫剤を撒いても効果が薄く、人間は常に後手後手の対応を迫られます。

群れが通りすぎたあとは、稲や麦だけに限らず緑の木々や草、植物性の繊維などが食いつくされます。食料生産へのダメージははかりしれず、現地住民の方々に影響を及ぼすのはもちろん、そこから食料を輸入しているすべての国にも影響が及びます。遠い日本に住む我々にも決して他人事ではないのです。


起源1世紀ごろに書かれたヨハネの黙示録にも、5番目の天使がラッパを吹いたときに蝗害の記述があり、人の手の及ばない恐ろしい災害として描かれています。

まさに黙示録級の災害なわけですが、そんな蝗害の被害を最小限に食い止めようと尽力する大勢の人々がいて、だからこそ2年間で収まったと言えるのかもしれません。

前野ウルド浩太郎氏も、真っ向立ち向かう勇者の一人。日本出身のバッタキ○ガイが、単身堂々と人知の及ばぬ黒雲の前に立ちふさがる。なんとも痛快な光景だと思いませんか。


黙示録には4人の騎士がおり、それぞれが「支配」「戦争」「飢餓」「病毒・野獣」を象徴すると言われています。

2022年において病毒は隆盛を極め、ついには戦争さえ発生しています。しかし飢餓をもたらす蝗はどうにか駆逐され、病毒もまた少しずつ沈静化の方向に進んでいます。
その戦いの最前線には、バッタを研究したり、ワクチンや特効薬を開発したり、インフラを整えたり、侵略に抵抗したり、難しい交渉をまとめたりする無数の勇者達がいます。
我々の世界は、名も知らぬ大勢の人々によって守られていることを忘れてはならないのだと思います。


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