ガンサバイバーの占い師である私が将棋に救われた話

2017年、私の世界はほぼベッドの上だけに存在していた。シングルより少し大きめのセミダブルベッドでも、世界の中心として語るには余りに小さい。

占い師になるまでの職歴はフランス料理店や喫茶店のウェイトレス、エステティシャンやリフレクソロジスト、法律事務所の事務など色々あるが、その多くは悪質なセクハラやパワハラやストーキング被害、貰い事故による長期療養や後遺症への理解を得られず理不尽に批判され居づらくなって辞めたものばかりである。

それでも占い師のお仕事だけは自らを占っても一番合っているようで、ありがたいことに周りからの協力も得られて色々と順調だった。自分のペースで出来るので身体に負担なく続けられるのもよかった。

そんな2015年、ガンになった。以前からガンに変異する可能性の高い細胞があるとのことで経過観察を10年以上続けてきたが、遂にその日が来てしまった。覚悟出来ているつもりだったがやはりガン告知は大きなショックだったらしく、諸々手につかなくなりその月の家賃を振り込むのを失念していた。ちなみに、他の家賃は滞りなく振り込んでいた。これがまさかの事態に。

1回目の手術は失敗してしまい、重度の鉄欠乏性貧血も併発することになってしまった。私の体内のガン細胞はかなり切除しづらい場所にあるとのことで、2回目は病院を変えて臓器とリンパ節の一部を切除する9時間に及ぶ手術をすることになったが、その2日前に大家さんから1ヶ月以内の立ち退き要求の連絡が来る。前述の家賃振り込むのを失念していて慌てて振り込んだ際に遅れた事情を説明したら『ガン→死ぬ→分譲賃貸物件の資産価値が下がる』と思い込んだらしい。実際には告知された当初はショックだったけれど早期発見で死ぬようなステージではなく手術すれば何の問題もない状態だった。

無事手術は成功してしばらく入院し、退院してあまりゆっくりする間もなく法テラスのお世話になることに。一旦は立ち退き要求もなく大人しくなった大家さんだったが、その後嫌がらせに発展し病後の身体で住み続けて嫌がらせがどんどんエスカレートした場合に自衛出来る自信もなく他の物件を探すことにした。ガンの術後ということで心無い言葉を浴びせてくる不動産屋さんもあったけれど、親切な不動産屋さんに巡り会えて前より条件のいい物件に移れた。その際立ち退き要求した大家さんとの間に上手く入ってくれてこちらに有利に、かつ金銭的負担なくお引越し出来たのは弁護士さんのおかけです。その節は本当にありがとうございました。

そうして以前より広く収納も充実していてお買い物も交通の便もよくて住環境抜群になったにも関わらず、私の体調は悪化していった。

これまでの仕事で経験した社会の理不尽さへの疲れ、ガン、大家さんや不動産屋さんに言われた心無い言葉の数々……その時その時はひとつずつ対処するのに精一杯で気づかないうちに積み重なったストレスが、数年運動禁止され筋力も落ちて身体が弱ってるときに爆発した結果なのかもしれない。そうなるといくら家で自分のペースで出来る占いのお仕事もスケジュール通りこなせなくなったり、自分で納得出来る鑑定が出来なくなっていた。

2度の貰い事故の後遺症と術後の体力筋力低下の合わせ技で、この頃から気圧に思いっきり振り回される体質となる。軽いめまい立ちくらみで済む日もあれば、台風接近時はぐるぐるバットした直後で目が回り足も満足に動かせないほどフラフラになったような状態が一日続くこともある。そうなると気持ち悪くて食事を摂るのも難しく、トイレも時間をかけたつかまり歩きでどうにか行ける。目が回るのでSNSのTLスクロールでさえ酔ってしまう。読書も同じ。とてもお仕事どころではなくなるし、当時ハマっていたものは出かける必要のあるものも多くどんどん心を満たすものの頻度を大幅に減らすか、ものによっては距離を置くこととなる。

私が私でいられるものがどんどん奪われ、下手に外出してどこかで体調崩すより、ただ寝ていることが家族に迷惑をかけずに済む私のお仕事のようになっていった。

そんなセミダブルベッドの上で出来ること。目が回る日でもテレビのドラマの音声なら楽しめる。目がそこまで回ってない日なら読書も出来るし、ネットサーフィンや動画鑑賞は出来る。そんなときに、たまたまつけてたテレビで紹介していたのが藤井聡太四段(当時)。

当時の私は将棋のルールもろくに知らないのに何故かとにかく賢い人しか出来ないイメージがあった。おそらく羽生先生の和服姿、国民栄誉賞受賞、紫綬褒章受章などをニュースで観ていたからかと思う。来る日も来る日も藤井聡太先生のことを放送していて、次第に将棋とはどんなものか?他にどんな棋士がいるのか?調べていくうちにすっかり沼にハマっていた。

将棋は観るのも指すのも頭を使うし集中力も上がる。それが功を奏したのか、将棋にのめり込むうちに2年間ほぼ寝たきりだった私に気力が湧いてきた。将棋のお勉強がはかどれば本職の西洋占星術やタロットのお勉強もはかどる。元々興味があったメディカルハーブコーディネーターやアロマテラピー検定1級も取得し、西洋占星術とのコラボメニューも作ることになった。

将棋のドラマティックな世界に魅了され、将棋小説も書きたくなり『将棋と文学シンポジウム』に参加し、その流れで将棋と文学研究会に参加して毎回私の知らなかったことを深く学ばせて貰っている。将棋小説も少しずつ書き進めている。元々物書きや歌うたいを目指してその資金と生活費を稼ぐために色々なお仕事をしたことを思い出した。こうなってきたら、歌もまた本格的にやりたいという気持ちになってきて、そのためには体力戻そうとピラティスや筋トレをしたりプロテインを飲むようになった。

将棋を通じて多くの素敵な人々と出会えたのも、ほんの数年前には想像すら出来なかったこと。多くの楽しくて優しい将棋ファンも、推しと呼ぶほど熱心に応援したい棋士の先生方も。

これからも棋譜でハラハラドキドキさせて下さい。もっと将棋のことを知って観るのも指すのももっともっと楽しめるようになります。

棋士・女流の皆様、いつも私たちに元気をくれてありがとうございます。ご恩返しにこれからも精一杯応援します。

いつもワイワイ楽しく応援や観戦楽しんでくれる将棋ファンの皆様、最高です!

いろんな『好き』と『楽しい』と『ありがとう』に出会えたのは将棋のおかげです。

『将棋』を好きになったことで新しく好きになれるものがどんどん増えて、元々好きだったことがもっと好きになり、自分の人生を楽しめる自分も好きになれた。

好きという言葉だけでは語り尽くせないほど、将棋が好きです。

ありがとうございます。

これからもよろしくお願いします。

#将棋がスキ

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