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世界がいつかまた、騒がしくありますように~2019年ダービーデー観戦記

アニメ「ウマ娘・プリティダービー」1期ですっかり競馬熱に当てられてしまった私は、その翌年の5月、友人に無謀な挑戦を持ちかけた。

「ダービー観に行こうぜ!」

恐らく1年で1,2を争う混雑を極めるであろう東京競馬場に、日頃の不摂生が祟っているおっさん二人で向かおうと言うのは、今思い返しても無茶だと思う。しかし、行けるときに行っておいて本当によかった。翌年2020年は無観客開催、そして今年2021年も、入場者数を制限してでの開催となる。自由に押しかけて、大声を出せる状況にはまだほど遠い。

それでも今週末にはいよいよダービーがやってくる。そんなタイミングで、当時現地で観戦した時の熱量を感じたいという声があり、いっちょまとめてみようと思い立った次第です。

広い空、鮮やかな緑、漂う熱気

東京競馬場に来たのは、この時が初めてではない。以前に来た時は、まだ競馬の何たるかを何も知らずに右往左往するだけで終わってしまった。

しかし今回は、アニメで観た景色、語られたストーリーから掘り下げて得た知識があり、きっとその解像感は違うはずだ。

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これは府中本町駅からの通路を通って入場した直後の風景。

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これがアニメ1期でスペちゃんが初めて東京レース場に来たときのシーン。

「同じだ〜!」

もうこれだけで感動できてしまった。

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ちょうど平場のレースが始まるところで、ゴール前に行けそうだったので行ってみることにした。場所取りのレジャーシートやらなんやらが敷き詰められているが、どうせ人はいない。気分だけでも味わえれば、と思っていた。

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へたっぴな動画が途中までしか撮れていなかったので、その切り抜きで許してほしい。これでは到底伝わらないだろうが、想像以上だった。

ゴール前に響く蹄の音、湧き上がる怒号のような歓声、そして目の前を力強く駆け抜けていく馬たち。テレビや動画では何度となく観た光景。それが今、目の前に、在る。

競馬という競技は、画面の向こうの絵空事ではなかった。スマートフォンでポチポチして、結果が出て当たり外れに一喜一憂するだけのものでもなかった。これが、競馬なんだ。

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東京競馬場内にあるウオッカ像には、たくさんの花やにんじんが供えられていた。この年の4月に、ウオッカは星になったばかり。我々以外にも手を合わせる人が絶えなかった。

もっと前から競馬を知っていたら、あの天皇賞・秋をここで観戦して、大興奮しながら写真判定を待ったりしていたんだろうか。遠い異国の地で、彼女は寂しくなかっただろうか。そんなことを思いながら、私は手を合わせた。

バレリオとの出会い

メインレースである日本ダービーの前に、同じコースを走る条件戦が組まれていた。8Rの青嵐賞だ。いっちょ前にパドックを見て、勝つ馬を考えてみることにする。ダービー本番を占うレースとして注目する人は多い。パドックはごった返していた。

そこで出会った、一頭の芦毛の馬。名前はバレリオ。

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(パドックでの写真を撮りそびれたので、netkeiba様からの引用です)

毛色が目を惹いたのと、父があのステイゴールドということで、何となくピンと来た、気がした。

「あいつ、走るよ」

腕を組みながら、知ったような台詞を吐き、いそいそと単勝を買った。

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そしてスタート地点前に陣取り、想い(とお金)を託した人馬の全力を見届ける。これを1日中繰り返す休日は、そりゃあ楽しいよな……と、引き返せないところまで来ていることを実感する。

そして、勝った。本当に勝った。先行抜け出しで危なげのない、堂々たる勝ちっぷり。そんなにたくさん配当が付いたわけではないけど、自分が見出した馬が目の前で勝つという体験は、あまりにも甘美な毒だった。

https://db.sp.netkeiba.com/horse/2015105076/

そんなバレリオは、今でも現役で頑張っている。その後3勝クラスも勝ち上がってオープン馬となり、重賞にも挑戦するまでになった。最近はなかなか勝てていないが、私はずっと彼を応援するだろう。いつか重賞を勝ってくれたら「ああ、バレリオね。2019年のダービーデーで見た時から、アイツは走ると思ってたよ」とドヤ顔するだろう。させてほしい。

熱狂と興奮のクライマックス

そうこうしているうちに、日本ダービーのパドック周回が始まった。

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まるで人の密度が違う!そして遠目に見ても何も分からん!早々に退散し、買い目の最終結論を出しつつ、観戦場所の確保に向かうことにした。

この年はサートゥルナーリアが話題の中心だった。無敗の皐月賞馬で、父ロードカナロア・母シーザリオ(その父スペシャルウィーク)という超良血。単勝1.6倍と圧倒的な支持を集めていた。

もちろん、ウマ娘から入った私としても見過ごすことはできない。当然軸にして、相手に人気薄を狙ってみよう、くらいの知恵は付いていた。

芦毛のバレリオが勝ったんだから、今度も芦毛や!エメラルファイト!

セイウンスカイの血を引く執念の配合、ニシノデイジーがんばれ!

2400の逃げ切りがみたい!リオンリオン!父ちゃんからバトンを受け継いだ横山武史、男を見せてくれ!

今見返しても、まるで勝負勘のない買い目でセンスの無さにクラクラするが、「馬券は自分が見たい結果が当たるように買え」というのが私のポリシーである。悔いはない。

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自宅にいる嫁さんからも「名前がかわいいリオンリオンと、芦毛がかわいいエメラルファイト」とオーダーが来てたので、買っておいた。それぞれ当たれば5,000円か10,000円にはなる馬券だ。当たったら豪華なお土産を買って帰るからな(フラグ)。

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ゴール前はもはや立ち入れるような状態ではなかったので、第4コーナーから直線に向く所に陣取ることにした。意外と人口密度は低く、穴場だった。

いよいよ出走だ。生演奏のファンファーレと、地鳴りのような歓声(余談だが私は『オイオイ!』と合いの手を入れるのは許せない派なので、昨今の声出し禁止観戦はその点においてはありがたいと思っている余談おしまい)が、遅れて耳に届く。ターフビジョンもここからだと小さいので、状況を把握するのには音だけが頼りだ。

スタートしたらしい。サートゥルナーリアが出遅れたことによるどよめきが起きる。レースはリオンリオンが凄まじいペースで逃げていく展開。1000mの通過タイムは57.8。57.8ィ!?おいおい、東京の芝中距離で1000m57秒台出されちゃうとサイレンススズカの幻影を見てしまうじゃないか!大丈夫かリオンリオン!横山武史!そうこうしているうちに大ケヤキを過ぎて第4コーナー、え、今から目の前通るの?ダービーを走ってる馬たちが?マジで?

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「行けぇぇぇェェェーッッ!!!!」

リオンリオンはまだ先頭で頑張っていた。それを見た瞬間何かが吹っ切れて、叫んでいた。自分はスポーツ観戦していて声を上げるようなタイプではないと思っていたが、関係なかった。突き上げられるような熱狂が、私を叫ばせたのだ。

まぁ、結果はご存知の通り。リオンリオンはいっぱいいっぱいになり、15着にまで沈んだ。勝ったのは伏兵ロジャーバローズ。まるでマークしていなかった。大本命サートゥルナーリアは出遅れたものの、意地で4着に食らい付いた。馬券を勝った中で一番惜しかったのはニシノデイジーの5着だった。みんなよく頑張った。

そしてそれから

その後のことは、よく覚えていない。12Rの目黒記念も観戦し、前年末に有馬記念で私に初的中をもたらしたブラストワンピースに全ツッパして、見事に飛んだけれども、別にそれがショックで記憶を消したわけではない。凄いものを見た、凄い体験をした……その余韻に浸りながら、帰路についたのだと思う。

その年の夏は、ゴールドシップに会うため北海道を旅した。凱旋門賞デーには、また同じ友人と東京競馬場を訪れた。このダービーデーの体験が、私を突き動かしたのは間違いない。

そして今年も、いよいよダービーデーを迎える。

あの日、私が叫んで応援したリオンリオン。その鞍上にいた横山武史騎手は、今度は無敗の皐月賞馬エフフォーリアに騎乗する。二度目のダービー挑戦、若くして戴冠なるだろうか。

今日も東京競馬場に佇むウオッカ像。彼女が残した偉大なる蹄跡に、サトノレイナスは続くことができるだろうか。

一昨年ほど騒がしくはなくても、今年は観客がいる。そして、ダービーというレースの持つ意味を知っている人は、去年までより確実に増えているはずだ。

想いが、縁が、血が紡ぐ、熱狂と興奮の2分半。一緒に見届けましょう。そしていつかまた、自由に競馬場へ赴き、遠慮なく声が出せる日が来ることを願って。(オイオイはなくしたままで)



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