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【VOID】無代 正宗(むだい まさむね)

※CoCTRPGシナリオ【VOID】のHO1秘匿内容に触れています。

拝啓 ヒトではない魂へ


バックストーリー/真

容姿
右目はシアン。髪と左目は黒。
鉄仮面。表情に乏しく、声にも感情をあまり感じさせない。特に右半分がぎこちない。
/火傷痕、右半身の義肢、義体。普段は化粧で隠している。

イデオロギー/信念
希望を探している。
誰もが生きることに希望を持てる世界を護る。そのことを、自らの希望としているつもりだ。
/克己 
刀は扱えるようになった。唯一今の自分の得た、世界に抗う術だ。自分が変わることができるという証明だ。
-だがこの喪失は、失われたものは、自分の力で取り戻せると信じたい。せめてそのことを誰にも遮らせたくはない。

重要な人々
/後見人 黒田矢代
俺の求める真相を知る人物のはずだ。事件の担当なら自分の過去も知っているはずだが、それさえ教えてもらえていないのはどういう訳なのだろうか。俺が真実を知ろうとすることを止めないのは何故だ。
故人 母
記憶の中で、母の喪失だけが確かだ。
母の喪失はある、では父は。他の家族が俺の前に現れないのは何故だ。

意味のある場所
/10年前の事件現場
記憶にあるものは全て喪われた。

秘蔵の品
目貫 刑事になる時、赤星に「お守り」として貰った。
/電子刀さえ握ることに不安を覚えるため、日本刀の目貫飾りを左手に括り付けている。右手は義肢のため不要。左手で刀を使用する場合のみ必要とする。

特徴
・冷静沈着で義務的な態度をとる。誰に対しても適切であり平等。
・人間と機械を明確に区別している。それだけでなく、身内と他人、上司と部下等、立場の認識を正確に行おうとする。
・両利き。体温調節が苦手。どうやっても機械類をジャムらせる。(単に不慣れなため)
/人でないものへの恐怖から、人でなくなることを恐れている。
人であることの恐怖から、人でなくなりたいと望んでいる。
人でなければ良かったのに、人でなくなることも嫌だ。
・脳、心臓は生身。喉元の傷は事件によるもの。

恐怖症、マニア☑️
/アンドロイド恐怖症 鉄の匂いと炎に対するトラウマ(刃物は克服した)失語症を伴う

目的-過去-現在

【目的】

1.記憶を取り戻すこと
この喪失を、欠落を埋めることができれば、きっとこれまでの無力さから解放されることができるのではないか。それが今の俺の全ての否定になったとしても、呪いを解く術はこれしかない。
2.10年前の事件の真相を掴むこと
この喪失の、真実を知ることができれば、先へ進む希望を得ることができるのではないか。俺がこうなったのは一体何のせいか。それが絶望だったとしても、知ることを選択する必要がある。
3.願い/真のイデオロギー
皆で正しさを探していく。ことができると信じたい。
これ以上俺に何も失わせないでくれ。俺を取り残して行かないでくれ。俺にも守らせてくれ。そのための傷をくれ。
そうして一緒にくるしんでくれ。
これは願いだ、俺の力では叶わないことだから。だれかそこにいて。

【過去】

-例えばこの火傷が無かったら、俺は炎に怯えなかったのだろうか。それさえも俺はわからない。

気づいたときには、右半身にかけて大きな火傷を負っていた。喉元に刃物でついたらしい傷があって、声が出なかった。喉に真新しい包帯があったから、事件の時に失ったのだろう。火傷の痕はもっと古いものだったが、理由は覚えていない。
人工声帯、まず最初に自分の声を機械によって手に入れた。俺自身が元はどんな声をしていたかも覚えていない。
右目の義眼、右鎖骨と肩甲上部辺りから右腕、右胸部、側腹部、回盲部、臀部と右脚を義体化。頭部右側以外の火傷の痕跡は、それによって置き換わっていった。そうすることで、アンドロイドに対する恐怖心が多少なり軽減しないかとも考えた。
自分に無い力を、自分に無いもので補おうとした。恐怖の象徴だった機械の手が、いつのまにか自分の手になった。
次第にそれが恐怖か、敵視か、羨望かの線引きが難しくなっていった。
この腕は代わりがあるのに、あの火傷の腕が戻ってくることはない。だが何もできなかったあの腕に、どれほどの意義があっただろうか。せめて、生身であった頃よりも有能であるように、この選択が正しいと証明できるように、得た物を使わなくてはならないと思う。

これだけ苦しいのだから。

【現在】

火傷痕、傷痕、義体化を隠すため、常時ドーランを使い厚い化粧をしている。
義肢は消耗が激しく、メンテナンスはあまり行わず戦闘ごとに交換する事が殆どだが、それはこの手脚の優れたところでもある。警察関係者には明かしていないため、専属の技師に調整を依頼している。無論黒田と赤星はその状況を把握している。
電子刀は2振に分け、打刀と脇差の要領で使用。左腕のみでも脇差を扱うことはできるが、メインでは代替可能な右腕で力任せに打刀を振るっている。(本来は両手持ちの刀身を片手でコントロール可能にしている)
事件のことをバネに成長してきたが、それは巨大なコンプレックスの表れだ。そのようにしか人生を経ることができなかったのだから、事件についての関心も、アンドロイドに対しての恐怖も消すことはできなかった。結局それは自分の原体験であり、今の自己の殆ど全てを構成している記憶でもあった。
だが事件のせいで、もしもアンドロイドとでは仕事にならないと分かってしまったら、それは自分の過去が明確な欠陥であることの証左に他ならない。これまでアンドロイドとの接触を避けて過ごしてきたのは、それが確かになるのが怖かったからだ。
そのため無意識に"アンドロイドに張り合おう"とする。何より完璧に、正常に、正確にと決め込む。結果として、機械よりも機械的な性格にみえるらしい。
人と機械を明確に分けるが、扱いを変えるということもない。それはただ認識を間違いなく行い、そうして、自分がどちらであるかを確認する必要があるだけだからだ。
これまでも記憶がフラッシュバックすると、目の前の“機械“に恐怖を感じて仕方がなかった。特に手を。いつかそんなことを思わなくなる日が来るように、真実を知り、己の過去を克服しなくてはならない。それが自己の立脚している「喪失」の喪失だとしても。その先に立つのがもはや「自己」とは呼べないかもしれなくとも。報いたいと思う。

それでも生きることを選んだ以上は。

【HO2】

-きっとお前はこんなことを感じはしないんだろうな。俺ばかりが傷だらけだ。それをぶつけるつもりもない、なかったのに。

仕事の関係以上になろうとはしない。プライベートの共有も基本的にしないつもりでいる。近づきたくないのは直感的な敵対、恐怖心からであり、それが互いにとって最良だと考えている。
この恐怖心そのものに内罰的なため、普段から拒絶の態度をとるわけではない。頭では別の機体だと分かっているし、そうすることで内心の制御を試みている。だが、別のものであることこそが機械への恐怖心の一端でもあるため、本当に最良なのは機械であることを意識しないでいられるようになることだとも思う。"個人"として認識ができたら変わるものもあるかもしれないと思うが、それは根本的に不可能だと考えている。少なくとも自分にとっては。
HO2がアンドロイドであり、自分が人間である垣根を無視できない以上、その望みは叶わないだろう。

手を繋いで、離さないで、そのままこの現実にいて。人間もアンドロイドも、そのどちらでもなくても、ここにいて。

アイデンティティ/コンフリクト

1.喪失により形成された自己

1.欠けた記憶からの始まり

現状無代正宗の自我の目覚めは、10年前の事件を起点とする他ない。それ以前の記憶は失われており、現在までその補填が不可能であったためだ。
記憶の喪失とは連続した意識の欠落であり、彼が自身を「自己」と定義できるのは、覚えている限り最も古い記憶からの10年間のみだと言える。
また、その記憶そのものも「喪失」と呼べるものである。
つまり、彼の根幹、自身を形作る観念は大凡「喪失という経験」に拠るものとなる。

10年間のうちに、親族に相当する黒田や赤星といった協力者を得てはいるが、果たして家族というものがどういった存在なのか-精神的な立場なのか-について、彼が理解するには至っていない。今まで築いた関係が家族であると結べないのは、彼の中の「家族」が「喪われたもの」であり、本来の家族と過ごした人物及び時間が存在しないためである。それは「家」の概念も同様である。
例えば記憶の中にもしも母が倒れているようなことがなければ、今の関係を家族だと呼ぶことができただろう。しかし彼は最後の(最初の)記憶の中に確かに自分の母親がいたことを覚えている。だがその人が一体自分にとってどのような存在だったのかは欠落している。
「家族」という存在が記憶になければ、新しく構築したものをそう呼ぶことができたかもしれない。存在したことは覚えているが、それがどのようなものだったのかを記憶していないために、「家族」と呼ぶ適切な関係は不明のままだ。

アンドロイドに対しての恐怖心も同じように、元からあったものか、事件の時に生まれたものか、それより以前には全く反対のことを思っていたのか不明である。恐怖の理由が明らかでないのなら、正しい対処ができていると答えることは不可能だ。
初めから拒絶してきた対象であれば、変わらず背を向けることができたかもしれない。それを望んでいるのかと言う問題以前に、そうである確証がないままに恐怖だけはある状態に置かれているということに重心がある。
恐怖を覚えた明確な始点がありながら、その理由に解答はなく、そしてまた、事件に関して何も明らかにならないままでは、アンドロイドへの恐怖を抱いていることさえ正しいと言うことができない。
例えば「あの機械の手に傷つけられたのではなく助けられたのではないか」「事件の原因は家族や自身にあるのではないか」というように、事件の真相を知れば、以前の記憶があれば、現状が覆る可能性があるために、殊更に何かを憎むことが出来ないでいる。

確かなものは、ただそのようになってしまった彼自身、喪失の記憶とそれからの10年間のみだ。

2. 硬化する過去と抗う自己

では彼が彼自身であると定義できる10年で獲得してきたものは何か。
それはヒトであることの否定と、そのために義体化した半身だ。
彼は「喪失」に起因するものの克服にこれまでの時間を費やした。二度と同じものを失うことのないように、確かに失ったものを取り戻せるように、人を超えた能力が必要だと考えたからだ。

彼が事件で確かに失ったものだと言えるのは、記憶と母親、そして声である。
彼は機械によって、直ぐに声を取り戻すことができた。機械であれば、喪失を埋めることができた。
つまりは、自分が機械ではなく人間だったから、今も人間であるから、喪ってしまうのだと考えた。
だとするなら、機械の身体を得ることが、あの記憶への対抗手段になるはずだった。更には、記憶にない半身の火傷の痕も、それが炎や油を恐怖する理由だった可能性があるなら、義肢に置換してそうでない身体を得れば良いと考えた。記憶に無い過去の存在ごと切り離すかのように。
果たして、手に入れた声や手脚は「取り戻したもの」ではなく「代わりの別物」だ。機械は代替可能であるのと反対に、人間は同じパーツを取り替えることは不可能である。それを理解すると同時に、再び拭えない恐怖心と同居しなくてはならなかった。
そして、変化を重ねれば重ねるほど、彼の中で際立つのは「喪失」の方だった。
彼の最後の記憶は、勿論強いトラウマとして刻まれているが、過去の蓄積が無い人間にとって、そのトラウマは存在証明と同義になっている。
この記憶とその証明になるものが自分自身の構成から消失した場合、彼は彼を定義付けるものを喪失することになる。
義肢とはあくまで、本質としては人体の代用品だ。全身が義体になったら、それを彼は自分だと呼ぶことはできない。彼にとってヒトでなくなるということは、10年前までの自己の存在の否定であり、喪失であるからだ。
過去を克服するために経験してきたことが、かえって揺るがせられない「過去」の存在を彼に意識させる。
彼が10年間で得たものも、ヒトであることの「喪失という経験」である。

事件の真相を知れば今度はこの10年が否定されるのかもしれない。だが、彼が「取り戻す」ことが可能なのは、今は寧ろ記憶だけだ。
どちらにせよ、失い続けるしかない。

彼を形作るものは、自己の欠落である。

2.人間と機械の境界

1.相似であろうと同一ではない

彼は人間とアンドロイドの違いをどこだと捉えているか。
アンドロイドについて、彼の認識を端的にいうと「同化不可能な人間の代替品」である。

姿形や言動で判別がつかないことは、ヒトと機械の似ている点の抽出であって、相違点の相殺には決してならない。似た点がよしんば同一だとしても、彼にとってそうでない部分を無視することは難しいどころか、それらの方が圧倒的に重要である。
機械になろうとした者にとって、人間と機械の違いは、取り払うべき課題であり、全てそれが叶うと言うことは、人間でなくなることを意味する。しかし人間だったものが機械そのものに到達することなど、その始点からして不可能、のはずだ。

例え身体を構成する要素、能力が同じだけ人間とアンドロイドに備わっていたとしても、その二つは異なる。
機械は道具であるからだ。道具とは目的のためにある。目的とは道具を扱う側にある。
人間が身体を完全に機械化し、道具のように扱ったとしても、機械と同一だとは言えない。何の為に、何を目的として、その能力を獲得し、使用するのかという動機が人間には内在するからだ。
身体を道具や機械にしようとする意識自体が身体に同居しているということが、機械との差異だ。それを潰すために身体から意識を排除できたとしても、捨て去る意思があったこと、放棄した過去までは消し去ることが出来ないだろう。
だが厄介なことに、無代正宗にとって過去は既に、理由も不明のままに失われたものだ。だとしたら、その身体に10年前に生まれた自我だけが、彼を人間たらしめることができるのだと言える。

では、反対にアンドロイドの機体にも動機や意思が内在するとしたら、そのとき、無代正宗を人間だと言える保証は、人間だった過去の保証はどこにあるだろうか。
人としての過去が「無い」ならば、アンドロイドと同じだ。いや、彼は「無くした」のだ、という違いはまだ残されているようにみえて、その記憶や過去が「存在した」という証拠は、実はどこにも無い。
「虚無」であるか「喪失」であるかの違いだけがあり、ただし「喪失」は虚構かもしれないというのが現実である。
つまり、彼が身体を全て義体化したら、本当に人間ではなくなってしまう可能性がある。だとしたら、残されている半身だけが、彼を人間たらしめているのだと言える。

どう手を尽くそうが、ソレは人間の似姿に他ならず、もとより人間として生きてきた者と同じにはならない。
「根本的に違う」と結論付けるに至るまで、アンドロイドに対する冷静な視点を持ち得たが、それはかえって、彼自身が人間であるという始点を揺るがした。
自らが人間である保証を得たいと思うことと、人間でなければ良かったと思うことの反復こそ、彼の立脚点だ。
機械と呼べない身体と、人と呼べない精神という行き止まりに何度も辿り着き、未だ立ちすくんでいる。

2.恐怖の矛先

無代正宗は人間であるが故に、機械を恐れる。
自身が人でなくなることを恐れるが故に、人でないものを恐れる。
それが自分の末路であるかもしれない絶望を見出してしまうのが怖いから。

その恐怖は欠陥だ。彼が人間だったせいで覚醒し、そのことが彼を形成する。喪失こそが僅かながらのアイデンティティである自分のことを何より嫌っている。
彼のアンドロイドに対する破壊衝動という狂気に起因する感情は、自己否定である。
喪失の記憶や、紐づく嫌悪の感情がなければ拒絶しなくてよかった対象に、彼が自己を定義するために失えないものであるこの不確実な恐怖のせいで、正しく対峙することが出来ない。
機械の手が何かを傷つけることを、自身に許せるはずがないのに、自身を許せないからこそ暴力に変わることがある。

アンドロイドの言動の目的や理由が理解できない時、その存在がまるで他者(=人間)にみえるようなブラックボックスに対して恐怖を覚える。
自分とは異なる存在としてのアンドロイド、との境がわからなくなるからであり、彼はそうした自身の首を絞めてしまいたくて、相手の喉に手が伸びる。
記憶の再現のようで尚更タチが悪いと自覚している。辛うじて、その時視界に映り込む自分の右手が、己の恐怖の根源を思い出させるから、相手でなく自分の右腕を破壊して落ち着けることが出来はする。
今現在、彼がアンドロイドに抱いている恐怖心は、10年前に植え付けられたものから少なからず変質しているだろう。
単なる敵性へのそれから、仇への憎悪に似た拒絶、機械に対する絶対的な劣等感、全てを巻き添えにした自己嫌悪の投影、へと移り変わり、何が自分の正確な感情なのか、もう言葉にしようがない。

ただ分かるのは、この恐れを失くしてしまったら、それは自分を人間だと定義可能だった境界線が壊れる決定打になるだろうということ。
彼にとって、人間とアンドロイドの違いを確認することは自傷行為に似ているが、常に行う必要のあることだ。見間違えて誰かを傷つけないように、自分の傷を確認し続けている。

恐怖から逃れたいと足掻き続けて見えたものは、逃れることで自分はまた喪うのだという終着点だった。

3.進む先に道はあるか

答えを求めているわけではない。ただ続くこと、一生自分が掴むことのできない希望を、せめて失わずにいることが出来たら、と思う。

俺は変わりたい。人は変わることができると信じていたい。信じていたいから、変化に手を伸ばすだろう。

それが正解でなくとも、そこに俺が存在していることを保証する誰かが、何かが存在してくれたら、その先も俺は自分として生きていける。そう思いたい。

人でなくなった時、人に戻れなくなった時、それを何と呼ぶのか。それが人でも、アンドロイドでも、そのどちらでもないとしても。

その先に崩壊が待っていると分かっていても、進む覚悟を持ちたい。

刃はもう怖くない、火傷の痕は隠した、機械の手さえ扱える。克服すべきは心だけだ。


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