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【プロジェクト紹介】 SNSによって社会分断?

立正大学データサイエンス学部 教授 家富 洋

SNS上におけるエコチェンバーの分析に関する最新の研究結果を紹介します。

■森羅万象はつながりから

 私は,企業間取引,銀行-企業間融資,株所有,貿易,ソーシャルネットワークサービス(SNS)などから生じる大規模経済・社会ネットワークの構造やダイナミクスをネットワーク科学の立場から研究しています。経済・社会の本質は個々の要素のつながりと言っても過言ではないでしょう。例えば,SNSは,人々のコミュニケーション能力を大きく向上させ,情報の共有化・普遍化を促進し,グローバリゼーションを一層加速化しています。まさに地球上のすべての人々がSNSでつながる時代が到来しました。

■エコーチェンバーとは

 ところが,このような情報新時代の旗手であるSNSには,負の側面があります。SNSが,人に生来内在する同類意識(類が友を呼ぶ式の同胞感情,共感)や確証バイアス(自分にとって都合のよい情報のみを受け入れる排他的性向)を呼び覚まし,情報の偏向や偏見などをもたらしています。その実証としてエコーチェンバー現象があります。エコーチェンバーとは,同じ意見をもつ人たちがコミュニティーを形成し,その中で偏向した情報がエコーのように反復されて,どんどん増幅される状態を表します(図1)。もし対立する意見についてそれぞれのエコーチェンバーが形成されれば,その中の人々は異なる意見に触れる機会を逸してしまい,ひいては大きな社会的分断がもたらされるかもしれません。

図1

■コロナ禍におけるエコーチェンバーの形成

 私たちは,ワクチンに関して発信されたTwitter(現在はXと改名)のデータをコロナ禍直前の2019年10月から東京オリンピック直前の2021年5月まで網羅的に取集しました。得られたデータを基にリツイートネットワークを構築することにより,新型コロナワクチン接種の賛否に関係する3つのエコーチェンバーが形成された事実を発見しました。各ツイートに付属のハッシュタグからそれらの特徴づけを行うと(図2),1つのエコーチェンバーはワクチン接種に反対するものです。残り2つのエコーチェンバーは,ワクチン接種を支持するものですが,それらは一枚岩ではなく,それぞれ野党側,与党側の政治的に対立するエコーチェンバーです。このように,我が国においてはワクチン接種についての賛否論争は政治的対立に組み込まれていません。対照的に,米国ではワクチン接種率の大小と政治的立場の違いとの間に強い関係がみられます。

図2

 誰もが平等にどのような情報にもアクセスし,自由に交流できることを標榜するSNSが,社会的分断を助長するとは,なんとも皮肉なことです。皆さんも自分の考えを確立するための参考情報をSNSから得ているかもしれませんね。その際には,この記事を思い出してください。

【参考文献】
[1] Iyetomi, H. (2021). Beyond “Evidence-Based” Policymaking. In: Ikeda, Y., Iyetomi, H., Mizuno, T. (eds) Big Data Analysis on Global Community Formation and Isolation. Springer, Singapore. https://doi.org/10.1007/978-981-15-4944-1_15
[2] https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-21K03385/

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