[Vol.4] 観光とデータサイエンス
立正大学データサイエンス学部データサイエンス学科 教授 大井達雄
■ 新型コロナウイルス感染症が観光地に及ぼす影響
新型コロナウイルス感染症が世界中に猛威を振るようになってから、既に1年以上が経過しています。毎日、メディアやネットから新型コロナウイルスに関するさまざまな情報が発信されています。たとえば、内閣官房の「新型コロナウイルス感染症」というホームページをご覧ください。最新の情報や支援・取り組み、データなどを入手することができ、これをみれば、現在の感染状況をおおむね把握することが可能です。
その中から「全国主要観光地における人の流れの推移」というデータを紹介したいと思います。このデータは全国主要観光地23地点の、ある特定の日の15時台の人の流れを、前日、前年同月、および2019年同月と比較しています。大手携帯電話会社からデータが政府に提供され、保有するユーザーの同意取得済みの位置情報から人口の変化を分析したものです。2021年5月時点では毎日更新されています。
図1は関東甲信越地方の7つの観光地の2021年5月23日(日)の分析結果をまとめています。2019年5月のそれぞれの観光地の人口数を100とし、5月23日、5月22日(前日)や2020年5月(前年同月)のデータと比較しています。グラフから、いずれの観光地も2019年5月の数値(100)に大きく届かないことがわかります。例えば、東京都浅草雷門周辺では、2021年5月23日の人流が4割程度しか存在しません。一方で神奈川県や長野県の観光地では、2年前の半分程度まで回復しています。地域によって、観光客の動態に差があることがわかります。
図1 関東甲信越地方の観光地の人流の動向(2021年5月23日)
(参考)内閣官房「全国主要観光地における人の流れの推移」よりデータを一部加工し,掲載
■ 1つのデータから多様な価値創造が可能に
最新の人流データの結果がこのような形で容易に手に入ることは一昔前では考えられないことでした。ただし、このようなデータは速報性を重視しているため、結果の解釈には慎重さが必要になります。いずれにせよ、ICTが進展することで、私たちの生活はデータを中心に大きく変わろうとしています。
さらに人流データの当初の使用目的は新型コロナウイルス感染症の把握ではありませんでした。もともとは観光地の混雑緩和や効率的な移動方法の提案に主眼が置れていました。数年前まで人気のある観光地に見物客が大挙して訪れることが問題視され、SDGsの実現のために人流データを活用することがもとめられています。
その具体例として、京都市は人流データの分析結果から京都観光快適度マップを作成しました(図2)。これは人気観光スポット周辺の時間帯別の観光快適度の予測やリアルタイム情報のほか、日中でも比較的空いている魅力的な観光スポットなど、密を避けた観光に役立つ情報を提供するものです。図2は2021年5月23日15時時点の京都市の主要観光エリアの混雑状況を予測しています。3密回避という言葉は新型コロナウイルス感染症の影響を受け、リニューアルの際に追加されたものです。
図2 京都観光快適度マップ
(引用)京都観光Navi「3密回避に役立つ京都観光快適度マップ」のHPより
観光に限らず,あらゆる分野で今後もデータ量は増加する一方です。同時に,1つのデータでも分析の視点や手法を変更することで,多様な価値を創造することが可能です。そのためにデータサイエンスの知識やスキルがもとめられています。また,観光業界は飲食店,宿泊施設,旅行代理店や交通機関など裾野の広い産業であるので,分析結果は他分野にも応用できます。観光はデータサイエンスの応用が最も期待される分野の1つといえるでしょう。
【参考リンク】
内閣官房「新型コロナウイルス感染症対策」(https://corona.go.jp/)
京都観光Navi「3密回避に役立つ京都観光快適度マップ」(https://ja.kyoto.travel/comfort/)