見出し画像

[Vol.2] 目に見えない”こころ”を データサイエンスする

立正大学 心理学部臨床心理学科  助教授  武部 匡也

■"こころ"の科学
私が専門とする心理学は、目に見えない”こころ”の学問です。「気持ち」や「性格」といった”こころ”は、データサイエンスとは縁遠いと思うかもしれません。しかし、心理学には”こころ”を客観的に理解しようとする科学的な方法があります。
 たとえば、みなさんが人の性格や特性の一つである「ツンデレ」について研究したいとしましょう。心理学では、「尺度」といって、そのツンデレを数値化できるものを開発することがあります。ツンデレの定義を決めて、その特徴を人から集めて、最終的にアンケートにする手法です (下図参照)。この方法によって、人それぞれの「ツンデレ度」を客観的に表して、統計学といったデータサイエンスで、目に見えない”こころ”を扱えるようになります。「ツンデレ度が高い人は、低い人と比べて、友人や恋人と満足のいく関係が築けているか?」といった具体的な研究にもつながり、ツンデレをより理解できるようになります。

図

本当に,“こころ”をデータとして扱えているか?
 さて、ツンデレの尺度を開発したとして、本当にこれでデータ化できているのでしょうか? それを知るために大切なのが、信頼性と妥当性です。ダーツを例に出しましょう。データ化したいツンデレはダーツの的で、アンケート項目は矢になります。信頼性は「同じ場所に何度も矢を飛ばせる力」で、妥当性は「真ん中に矢を飛ばせる力」です。この両方がしっかりと確認できることが大切です。つまり,真ん中に (妥当性)、何度も (信頼性)、矢を飛ばせるのが良い尺度で、ツンデレをしっかりと数値化できていることになります。これらが確認されないと、「ツンデレ」を科学的にデータ化できるものとは言えません。このように、データサイエンスを学ぶと、何が本当に信頼できる情報なのか、見極められる力が身につきます。
ちなみに、的外れなところに何度も矢を飛ばすことができても意味がないので、真ん中に矢を飛ばせる妥当性の方が信頼性よりも重要です。

文理が融合するデータサイエンスの強み
 データサイエンスは完璧ではありません。上の例で言えば、得点だけで一人ひとりを理解することはできないということです。なぜなら、たとえ同じ得点だとしても、その得点をつけた理由は人によって異なります。その背景には、その人独自のこれまでの経験や生活史があります。
今回紹介した科学的手法がより理系的なスキル (数値化する力) だとしたら、「人それぞれの個性や経験、生活史に着目する力」はより文系的なスキルといえるでしょうか。実践的で、日常に活かしやすい学びにつながる点が文理融合の強みといえます。たとえば、自分の性格がツンデレで困っている人に先ほどのアンケートを答えてもらうとしましょう。なぜその得点をつけたのかを尋ねることや、これまでにツンデレになった場面を探ることを通じて、性格の改善に活かすことができ、日常生活も送りやすくなるかもしれません。これは、得点による理解 (理系) と、個人の経験や生活史に着目する理解 (文系) を融合させた視点があってこその、データサイエンスの実践例といえるでしょう。

まとめ
今回は、目に見えない”こころ”を科学する方法と、ダーツの例を用いながらその方法の信頼性と妥当性を紹介しました。また、文理融合の視点によって、データサイエンスがより日常で活かしやすい実践的な学びになることも合わせて紹介しました。ぜひ、立正大学に文理融合のデータサイエンスを学びに来てください。