とある不自由な世界の甘太郎の乱

一方、不自由な世界では、悪魔族と神族と宇宙人族…などがそれぞれ自分の部下や奴隷や家畜やイエスマンや操り人形を得るために、自作自演の災害を多数生み出していた。

わざと災害や戦争や疫病を起こさず人類の皆が平和で仲良しだと、自分たちの部下や奴隷やイエスマンや操り人形を手に入れることができないと思ってわざとそうしたことをしていた。

計画的にそうしたことをしていたのだ。

神族は、悪魔族とその部下たちを滅ぼすために、巨大彗星をその惑星にぶつけようとしていた。

そうなっても一部の神族に何でも従うタイプの者たちが生き残れるように計画したりしていた。

しかし、ムゲンの分身体は思った。

そんなことをしてもそもそもその惑星、いや、その宇宙そのものが拷問体験強制収容所状態であり、その生命や肉体が拷問体験強制装置のままであれば、そんなことをしてもまったく根本解決になどならないだろうと思った。

生き残った者も、その子供も、やはりその体験者が入るのが肉体であり、その肉体が拷問体験強制装置のままであれば、やはりどうしたって人生のどこかで拷問体験を強制されてしまうことになる。

またその肉体にプログラムされている本能にしても、自分の意志だけで自由にオンオフできない状態のままであれば、どこかで本能の欲望に抗うことができずに悪いことをしてしまう者が発生してしまうだろうと思った。

いくらその時代の善人を集めてそうしたことをしても、過去にあったといわれているノアの箱舟という物語には、結果的にそうした方法ではうまくいかなかったという歴史もすでに存在していた。

だから、ムゲンの分身体の一体は、そんな方法ではあらゆる体験者が自分の意志だけで自由に心から満足できる世界は実現しないと思った。

結局、そのパターンでは、神族に何でも従わなければ、拷問体験を与えられたり、あるいは優遇措置を受けれずに差別されて辛い思いをする者が多数生まれるだろうことが予測できた。

人間たちに自由意志がある以上、なんでもかんでも神族に従うことはどこかでできなくなる。

自由意志とはそうしたものだからだ。

自由意志を完全に失ったロボットのような状態にまでならなければ、無条件に常に誰かに従うことなどできないのだ。

つまり神族は、人間たちに矛盾した守れないことを要求していた。

体験者たちに自由意志を与え、その自由意志で自分たちを愛し崇め賛美し無条件で従うようにと要求していたが、そもそも自由意志を与えた時点でそうした選択ができなくなる者が一定割合で必ず発生することなどはじめからわかっていたのだ。

ムゲンの分身体は、そこまでのことを理解すると、神族は狡いと感じた。酷いと感じた。

ムゲンの統合体や全知ちゃんからテレパシーで送られてくる裏情報によってその分身体はそうした裏事情を知ることになったのだ。

そんなことは不自由な世界のどの聖典や経典にも書かれていなかったが、その分身体はその情報が嘘だという証拠を見つけることができなかった。

それが真実であれば、いろいろな世界の不幸な歴史や事件や情勢が説明できると感じた。

そもそも不自由な世界にいる誰もがすべて良心的な者であれば、残酷な戦争や天災や事件など発生するわけがないと思った。

良心に反したことをする者がいなければ、絶対に残酷事件など起こらないと思った。

また、そもそも異常気象や地震やその他の天災類も、世界創造の設計の時点でそうしたことが絶対に起こらないように世界を設計していれば、絶対に発生することがないということも超時空体は教えれくれた。

自然現象などというものは、どうやらないらしい。自然もまた世界創造者が設計して創造したものだから、自然現象とは世界創造者の意志だということになるらしい。

であれば、世界創造主というのは実に残酷極まりない奴だなあ……なんでそんな残酷な世界設計にしたんだろう……とその分身体は思った。

その分身体は甘太郎と呼ばれていた。

なんですべての体験者が、みんなが平和に仲良く楽しく暮らせる世界に設計しなかったんだ……という思いがどうしても湧いてきてそんな残酷な世界設計をわざとした世界創造主が許せないと感じたのだ。

直談判をしようとしたが、どこを探しても世界創造主と書いてある表札は出ていなかったし、電話帳にもそうした名前はなかった。

「世界創造主クラブ」などという似たような名前があったので電話してみると、何やら変なクラブのようなところにつながってしまった。

話をすると、入会金などを要求され、甘太郎に払えない金額だと伝えると電話がガチャリと切られた。

甘太郎は納得がいかなかった。

彗星をぶつけたり、大津波を起こしたりしてもみんなが平和に仲良く幸せになるわけがないということくらい甘太郎にも理解できたからだ。

なんでそんなことするんだろう……と一人憤慨し、憤っていた。

するととある者が、

「悪党たちをまとめて一気に殲滅するためにそうしたことをするんだよ」

などと言ってきた。

「大丈夫、心の清い一部の人間だけは避難できるようにしてあるから、君も一緒に避難しようよ」と言われた。

甘太郎は、一部しか助からないのは嫌だと思った。

そもそも甘太郎は全員を救いたいと思っていたのに、さらに心が清い者たちであっても一部しか助からないなどあってはならないことだと思った。

そのために甘太郎は、とうとう神族たちを告訴してしまった。

「なんで、全知全能とかの能力がある神族なのに、全員を救わないんですか? それに心が清い方たちの一部しか救わないなんてひどすぎないですか?」

などという主張が甘太郎が神族たちを告訴した理由だった。

その告訴内容を見た悪魔族たちは、手をたたいて喜んでいた。

しかし、悪魔族の顔色が次の瞬間真っ青になった。

神族の顔色も真っ青になった。

甘太郎は、告訴内容にこう書き足したのだ。

「彗星とか大津波なんか起こしても、みんなを救うことはできません。ですからみんなを救うためにいったんこの不自由な世界の拷問体験強制システムと拷問体験強制装置をすべて消してしまいましょう!

そして、誰もが自由に自分の楽しみたい体験を自由に選べる超時空城に引っ越しましょう!」

甘太郎は、すでに超時空城の超時空大遊園地などで遊んだりした経験があったので、そう思ったのは無理もなかった。

不自由な世界と超時空城では、その自由度にしろ、快適度にしろ、楽しめる体験の質や量にしても、まったく比べ物にならないからだ。

甘太郎からすれば、みんなが幸せになるためにはそうするのが当然でしょう?という思いがあった。

神族も悪魔族も、ぶるぶると首を振って、その最後の文章を消すようにと必死に甘太郎に催促しはじめた。

しかし、甘太郎は、

「なんでなんですか? どう考えてもこの不自由な世界で生活するよりも超時空城の超時空大遊園地で遊ぶ方がみんなが幸せになるじゃないですか!」

と譲らない。

甘太郎は、みんなが幸せになることが確実だと思う場合には、自分の主張を譲らないのだ。

必死で止める悪魔族と神族を振り切って、超時空城にテレパシーで拷問体験強制システムと拷問体験強制装置を完全に消してくれと要請してしまった。そして完全消去と同時に、超時空城の超時空大遊園地に全員避難させてあげて欲しいと付け足した。

しばらくすると超時空城から返事が来た。

「甘太郎さん、その提案を実行しますと、甘太郎さんの今の肉体も同時に消滅してしまいますけど、いいんですか?

また、それを実行しますと、いわゆるそちらの世界で物理世界と呼ばれている領域世界が完全消滅しますから、惑星も宇宙もすべて消滅することになりますが、それでもよいのですか?

また、霊的世界と呼ばれている天国や地獄や極楽や煉獄などの世界も、やはり拷問体験強制システムや拷問体験強制装置となっているので同時に消滅することになりますが、それでもよいのですか?

不自由な世界の皆に相談して許可を受けなくても良いのですか?」

などという内容だった。

甘太郎は、嬉しそうにうんうんとうなづいている。

その状況を見て、あわてたのはその場にいた悪魔族と神族だった。

「ちょっと待て!!! 許可などせんぞ!!!」と悪魔族。

「待て待て待て!!! そのようなことは許可など絶対にせぬぞ! ふざけるのもたいがいにせよ!!!」

などと叫びながら乱心している。

甘太郎は、いぶかしげに悪魔族と神族を見て言う。

「え? だってあなたがたも他の皆さんの許可とか受けないで彗星をぶつけるとか戦争とか毒とかいろんな兵器で人類を殲滅したり削減したりするとか勝手に決めていたじゃないですか? であれば、僕の方の提案の方がそんな方法より絶対にみんなが幸せになるのがわかっているんだから、僕がそう決めてもいいでしょう?」

などと。

悪魔族と神族は、返答に窮してしまった。

そう決めてはいけないと主張すれば、自分たちの考えていた彗星や戦争の計画も放棄しなければならなくなるからだ。

だが背に腹はかえれない……物質世界や霊的世界まで全部消されてはかなわない……と両者思ったようで、しぶしぶそうした計画を0から見直すことに同意した。

超時空城からの視線を感じていたので、そう同意するしかなかった。

「じゃあ、僕の提案が一番良い提案のはずだから、僕が決めてもいいですよね」

と、甘太郎は畳みかける。

いやいやいや……と両種族は、皆と一緒に話し合おうと提案する。

少しでも時間稼ぎをすべきだと思っているようで必死だ。

不自由な世界と超時空城の世界の素晴らしさを比べられたら勝ち目はないとわかっていたからだ。
そもそも超時空城の超時空大遊園地では、不自由な世界などその気になればいくらでも丸ごとコピーできてしまうのだ。
しかも体験者ごとに自由にお望みの設定にすることができてしまう。
そんな至れり尽くせりの世界と比べられたら不自由な世界が消されるのは目に見えていた。

そこで少しでも皆で話し合う時間を設けて時間稼ぎをしたいらしい。

甘太郎は、超時空城での生活体験がすでにあったので、なんでそんなめんどくさいことをしなければならないのかと愚図っている。

甘太郎としては、早く皆の心から満足した笑顔を見たいのだ。

しかし、それは甘太郎の独裁だとか言われてしぶしぶ甘太郎は皆と話し合うことを受け入れた。
(今まであなたたちは独裁していたじゃないですか……などと思いつつ……)

こうして不自由な世界では知性がある体験者のほぼ全員が参加した会議がはじまった。
超時空城の面々たちが言語や種族の違いをテレパシー翻訳して手伝ってくれたのだ。

話の流れとしては、権力ピラミッドシステムの上層部にいた者たちの多くが、必死で今までの悪政を改めるからこのまま不自由な世界を存続させてほしいと主張していた。
とてもじゃないが、今まで通りの世界支配方法では、被支配者たちが納得するはずがなかったからだ。
自分たちの不自由な世界での権力特権を失うくらいならば、泣く泣く最大限の譲歩をしようと思ったらしい。

しかし、権力ピラミッドの下層部にいた体験者たちは納得しなかった。
それはそうだろう。今までさんざんやりたい放題に搾取されたり酷い迫害を受けたりしてきたのだ。
いくら悪政を改めると言われても、そもそも権力で支配されることが嫌だと思っていた体験者たちが納得するわけがない。
それなら、その権力の地位を自分たちによこせと詰め寄る。
今までさんざん権力の地位を独占してきたのだから、交代するのが当然だと主張していた。
そうでなければ公平ではないと主張していた。

甘太郎は議長役をしていたが、なるほど…と思う。じゃあ、今から権力の地位を上下交替しましょうか?と皆に打診してみる。
甘太郎は公平であるべきだと思ったのだ。

すると権力ピラミッドシステムの上層部にいた体験者たちが渋い顔をする。
下層部にいた体験者たちは、拍手喝采して大喜びだ。

とうとう悪魔族や神族たちの中には泣き出す者までいた。

甘太郎は、その姿を見るとなんだかかわいそうに思えてきて悩み始めた。

すると拷問犠牲者たちが、甘太郎に詰め寄って、今まで自分たちが世界支配者たちによって為された酷い拷問体験や不当な支配行為で悔しい思いをした体験などを切々と訴え始め、鬼の形相で悪魔族や神族の悪行の責任を問い始めた。

甘太郎は拷問犠牲者たちの告訴のあまりの激しさにおろおろとしてしまう。

超時空城から派遣されてきたサポーターたちはその有様を見て苦笑している。

そんなけんけんがくがくの会議が続き、とうとうそれなりの結論に達した。

甘太郎が支配者側と被支配者側との激しいやり取りで、混乱しはじめたので、超時空城から派遣されてきたサポーターたちが仲裁に入ったのだ。

その結果、それぞれの体験者ごとに不自由な世界でも、超時空城でも自由に選べるようにすることになった。

ただし超時空城は意識体の世界なので、物質の肉体は一緒に持ってゆけないことが説明された。

体外離脱の技術などの技法を使って一時的に超時空城での生活を仮体験をするという選択肢も提供された。

超時空城に永住したければ、意識体に進化できる道も開かれることになった。

不自由な世界に残る選択をした者たちは、平和的自治権が提供されることになった。

他者の自治権を奪ったりしない限りは、自由に自治し主権を持ち誰もが独立宣言ができるようになった。

不自由な土地や資源は不自由な世界の体験者全員の共有財産になった。人気のある良い土地や地域は利用希望者たちが一定期間ごとに順番に交替で使えるようになった。ただし努力して生み出した価値ある建造物や農地などについては労働に必要な労力を評価されてその労働内容に見合った対価や権利を得られるようになった。ただし不当な搾取などで得たお金でそうしたことを他者にさせた場合などはそうした対価や権利は発生しないものとされた。
不正な搾取等であったかどうかについては、超時空体験図書館の記録を調べて超時空城によって判断された。
よってズルや嘘や隠し事は一切通用しなかった。

完全自給自足技術が自主独立の精神を育成する異世界のピレネーフリースクールから提供されて、誰もがスタンドアロンで不自由なく無理なく自給自足できるようになった。

素粒子再構成装置なども導入され、宇宙でも大気圏でも地表でも海上でも海中でも…どこでも半永久的に自給自足生活ができる個人用宇宙船の製造技術も導入された。それはピレネーさんの孫のピレニーさんが開発していたものだった。

ピレネーさんは、別の世界でムゲンに世界支配者の地位を譲ってもらい大統領になり、世界市民から税金を取ることを止めて、自主独立の精神をもって自ら先頭に立って自給自足自治を目指した変わり者だった。完全自給自足可能な個人用宇宙船を製造するための実験事故で他界したのだが、今や超時空城の管理者の超時空体に進化していたのだ。だからその性格から自給自足技術をふんだんに提供してくれたのだ。

ピレネーさんには、誰もが余裕をもって自給自足自治できるようにすれば、みんなが本当に自由にマイペースで生きれるようになる!との信念があったのだ。ピレネーさんの元いた世界では、その仲間たちがその意志を継いでピレネーフリースクールというフリースクールを世界中の各地に展開していて、それが超時空城にも輸入されていた。

超時空城は、そんな感じで異世界同士をつなげる仲介点にもなっていた。

そうなってくると、どんどんとありとあらゆる異世界から良い技術や良い物が不自由な世界にも入ってきたために、一気に不自由な世界は飛躍的に豊かになった。

誰もがスタンドアロンで無理なく完全自給自足できるようになってしまった。

素粒子再構成装置によって、ありとあらゆる食べ物や料理を空間にある素粒子からいくらでも製造できるようになった。
どんな物や製品や食品でも素粒子レベルから完全にコピーして大量生産できる装置なのだ。

つまりどんな元素も素粒子から自由にいくらでも製造できるようになった。
金や銀などの貴金属もいくらでも製造できるようになった。
また、エネルギーも素粒子からほぼ無限に自由に取り出せるようになった。

そんな感じで不自由な世界は、実質的には超時空城が管理するような感じになった。
誰もが自由に自給自足でき自治でき、独立宣言ができるようになったので、もはや世界支配者という地位は存在しなくなったのだ。

しかしやはり不自由な世界の自然や肉体は、拷問体験強制システムや拷問体験強制装置のままだったので、どうしても時々、拷問体験が発生してしまっていた。

うっかり足を滑らせて転んで骨折してその激痛にうめく体験者などはなかなか0にはならなかった。

そこで希望者にはいつでも飲むだけであらゆる苦痛が消せる麻酔薬が提供されるようになった。
常に携帯しておくことで不慮の事故などで拷問体験が発生したらその麻酔薬を飲むことでその拷問体験を消せるようになった。

また、超時空城に遊びに行きたいという希望者たちのために、飲めば超時空城に体外離脱して遊びに行ける薬なども提供されるようになった。
その薬を飲むだけで、肉体から意識を分離することができ、そのまま意識を超時空城にワープできるのだ。
その結果、一気に不自由な世界の住人が減ってしまった。
仮体験した超時空城の生活があまりにも素晴らしかったために、そのまま戻らなくなってしまったのだ。
体験者本人の心からの希望があれば、それもよしとされた。
そうした選択をした体験者たちの家族や恋人や友人などが、次々とそれに続いた。

昭夫ダンジョンはそれはもう大人気で、老賢者様たちの最高体験お任せメドレーなどのサービスを受けた者たちは、ほとんどそのまま不自由な世界に戻らなくなった。
老賢者様の弟子となっていたメイ先生のファンクラブなども発足した。
メイ先生の瞑想教室で意識体に進化するためのノウハウが学べるようになった。

そして時のない部屋に修行ゲームをしにやってくる意識体の有志たちも増え始めた……

そのような経緯があり……不自由な世界の体験者たちの進化の流れが、大きく変わり始めた。

宇宙世界連合は、超時空世界連合の一部に組み込まれた。

不自由な世界に存在していた権力ピラミッドシステムは、気が付くと自然消滅していた。

考古学の世界の遺物のような状態になっていた。

誰もその権力者の椅子に座りたがらなくなっていた。

自業自得の責任が問われると何のメリットもないどころか危険すぎる椅子だと皆が理解しはじめたからだ。

まるで椅子取りゲームの逆のゲームのように権力者の椅子を皆が必死で避けるようになっていた。

切実に誰かに頼まれて、その頼んだ体験者だけのために、慈悲深い体験者がおずおずとその椅子に座るくらいになった。

支配してほしいと切実に頼まれなければ誰も見向きもしなくなった。

そんな感じで権力者の椅子は、博物館のような場所に埃だらけになってたまに発生する体験者たちのニッチな要求に応じるために一応残されて陳列されていた。王様ゲームや権力者ゲームをプレイしたいというニッチな要請があった時にだけ使われていた。

不自由な世界にはそのような変化が発生していた。

そのような体験記録が「甘太郎の乱」として超時空体験図書館に記録されていた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?