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モノローグでモノクロームな世界

第五部 第一章
一、
 その通報がサカイとの国境近くにある検閲所からもたらされたのは、副島が出勤して直ぐの事だった。
通報の内容は、昼間、サカイへと出国した入国審査官が、一名、戻らないとの事。
その一報を受けた時の、副島の率直な感想を言えば、またか、だった。

 ナインヘルツで勤め始めて、三年半。その間、ほぼ毎週のようにサカイから人が戻らない、あるいは、サカイへ無許可で出国した者がいるとの報告が後をたたない。その度に、調査や検閲、取締りのために、辺境の地に赴かなければならない身にもなって欲しい。
「ソエジマサン、どうしますかー?」
通報の報告書を持ってきたカランは、微妙なイントネーションを残したまま副島に返事を要求した。
 浅黒い肌の彼は、確か砂丘がある国の出身だと前に副島に教えてくれた。
砂嵐が起こると大変なんですよ。いくら、西暦時代の気候を模倣したとはいえ、あんな物まで再現しなくていいですよねーと、いつまで経っても直らないイントネーションで話していたことを副島は思い出した。
「どうもこうも、俺達は上の指示に従うだけだ。念のため、」
副島がカランに出動の準備を言い渡そうとした丁度その時、所内のサイレンが鳴り響き、十月国隣接のサカイへの緊急検閲を行う旨の放送が入った。
「カラン、十分後に出発だ。」
溜息交じりに告げた副島に頷き返したカランが準備の為、走り出したのを目で確認すると、彼自身も壁にかかっている灰色の防寒具を検閲官の制服の上から着込む。
腕章を左腕付近につけ制帽を目深に被ると、先程受け取った報告書をバインダーに留め、副島もまた、地下の車庫へと急いだ。

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