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モノローグでモノクロームな世界

第九部 第一章
一、
 ダームシティの地下は、驚くことに色で溢れていた。
見渡す限り電子画面で埋め尽くされた地下空間は、さながら電脳都市という言葉がぴったりと当てはまる。
 様々な映像と色を垂れ流す巨大な画面を横目にしながら、ケイは長い長い下りのエスカレーターへと足を乗せた。

 厳重な入国審査があると身構えたダームシティの審査は、実に拍子抜けをするほどに、あっけないものだった。リトリから受け取ったトリプル・システムの端末をリーダーに翳すと、入国許可証がすぐに発行され、地下帝国への入り口が開いた。その間、特に誰からも何も言われる事もなく、彼は今、
こうして地下帝国への入り口へと続く、下りのエスカレーターへと身を置いている。無論、それは、リトリから受け取ったトリプル・システムに登録されている偽のIDのおかげであろう。

 やがて、行先の見えなかった下りエスカレーターも、終着点へと辿り着く。辿り着いた先は、裏寂れた小さなホームだった。
神代真飛からの指示では、そのホームから電車に乗れとある。
次の指示は、その電車の中で受け取れるのだろうか。分からない今、彼の指示に従ったほうが賢明であろう。
それにしても、こんな形でこの電車に乗るとは思わなかった。
『ダームシティのゴーストトレイン。』

それは、噂好きの貿易商人が、かつて彼に教えてくれた話だった。
「ダームシティを走るゴーストトレインに乗れば、死んだ人間に会う事ができる。」
ただし、強く願わなければ、見ることも叶わない。
だから、ゴーストなんだ。

もしも、もう逢えない筈の人に会えるとするならば、自分は一体、誰を一番に思い描くのだろうか。
父だろうか。母だろうか。
大好きだった祖父だろうか。
それとも、マドカだろうか。

 小さなホーム立つ人影は、彼を含めて三人。
傍らに置いたくたびれたスーツケース同様に、疲れ切った表情を浮かべる老紳士、彼とは対照的に、どこか毅然とした面持ちで前方を見つめ続けている背の高い婦人。
 彼等もまた、誰かを亡くし、忘れられなくて、忘れたくなくて、この場所へと彷徨いこんだのだろうか。そんな事を考えるケイの前に、音もなく一台の列車がホームへと滑りこんできた。

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