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モノローグでモノクロームな世界

第二部 第三章
一、
 私達がこの地下室を抜け出せたのは、結局、あの事件から半年後のことだった。地下生活の終わりは突如やって来た。暗闇に白い光が訪れた日のことは、一生忘れることはできないだろう。
 それは或る一つの世界の終わりと共に、その後に続く絶望的な世界の始まりだった。
一面、冷気が渦巻く極寒の荒れ果てた土地。
幾日も、幾年経っても、姿を見せる事の無い太陽。
そして、その事に順応していく人々。
 世界の終わりだ。
世紀末だ。
神に見捨てられたのだ。
そう声高に叫ぶ一部の人々を顧みる暇も無い程、私達は、必死に現在を生き続けた。どうする事も出来ない絶望的な現実をただ受け止め、盲目的に明日を求める。約束された生から見捨てられた私達は、ただそれだけを求め、歩き続けることしかできなかった。
 破壊からの再生と構築。
やがて、世界は九つの国へと分かれ、衛生機関であるナインヘルツが主導権を握る形で発足され、ナインヘルツ主導のもと、世界は急速に新しい様へと変わっていった。
 その中で、私が果たした役割もある種、大きかったであろう。
それは、決して意図しての物ではなかったが。

 行くあての無かった私は、地下で一緒だった口髭の男に誘われ、ナインヘルツの本拠地があるヘルツ国へと移り住んだ。どうやら私のプログラミングの腕を甚く買ってくれたらしく、男の説得により私はナインヘルツで新世界のシステム構築に携わっていた。
 私自身と言えば、男の考えに賛同したわけでも、ナインヘルツの考えにも賛同していたわけではない。ただ、嘗ての東京を中心としながらも全く新しい世界へと変わっていくかつての日本に居続けることができなかっただけだ。
 思い出も、記憶も、何もかもが奇麗さっぱり失うような感覚が私を襲った。そうして、様変わりしていく土地から逃げる術として、男を頼っただけに過ぎない。

 結局、私はここでも逃げ出したに過ぎなかった。

新しい土地での暮らしは何もかもが新鮮だった。
様々な土地の人間が入り混じり、常に新しい創造を生み出していく。まさに想像が創造へと変わっていく場所だった。我々は一秒たりとも同じ場所に存在しない。ただひたすらに、架空の未来を夢見て、その実現のために知恵を出し続けた。
 私達のチームの担当は、この気候の中で、人々が今までの生活を取り戻すためのシステムを構築することだった。
長引く極寒の気候。
依然、姿を現さない太陽。
そして、全ての引き金となったあの戦争。
 西暦1983年に発表された論文内で提唱された状況と、今、我々が置かれている状況は酷似していた。


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