見出し画像

モノローグでモノクロームな世界

第八部 第三章
一、
 あの舟は今も壁の外で、新天地を求め飛行していることだろう。
私はというと、あれから最後のリトリを起動させ、舟を降りることを決意した。
 舟を降りて、何処にいくつもりだ?そう尋ねたミハラには、ダームシティの地下に潜るつもりだと正直に答えた。彼に嘘をついたところで、すぐに見透かされてしまうだろう。
 彼は私の回答に二つ質問を寄越した。
そこには、本当に行かなければならないのか。そして、本当にそこは安全なのか。私は彼のその答えに肯定を一度だけ返した。一度だけにした理由は、この世界に安全な場所が果たしてあるのか、私には分からなかったからだ。
彼は私の様子に、舟を降りる意志が固いことを見て取ったのだろう。それ以上、口を挟むことはなかった。
 舟に居られる最後の日、ワームの人々は身勝手な理由で舟を降りる私に対して、細やかな送迎を催してくれた。
 ナインヘルツでも、否、生まれてからこの人生で、これほど沢山の人々に自分の事を心配され、感謝の言葉を受けることが初めてだった私は、彼らの言葉に必要な返しができていたのかも怪しいものだった。
 だが、私にとって、その経験はこの衛生歴で受けたどんな出来事よりも素晴らしい出来事だった。

 だから、私は無意味な命令をリトリに下すことをもうしなかった。
そして、その代わりに彼女へTheBeeを破壊することができる鍵を託すことにした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?