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モノローグでモノクロームな世界

第五部 第三章
一、
 そもそもこれは無謀な作戦と言えた。
増えていく犠牲者の数に、彼はため息をつきながら外の様子を伺った。
 流石に何度もこのサカイを検閲している部隊だけある。彼らは恐らく、実戦を交えることにより、此方側のやり方も癖も、地形や気候も情報を収集していたのだろう。
始めの内は、容易く押し返せたのが、今やこの有様だ。しかも此方側の負傷者の数は、彼らの人数を遥かに超えてしまった。

 そろそろ潮時か。
元々、自分達の役目は女、子供や、非戦闘員を乗せたワームの母船が逃げ出せるまでの時間稼ぎに過ぎない。
母船が去った後は、秘密の通路を使い、壁の外へ逃げ、母船が再び戻るのを待つ。
 最初からその手筈で取り決めが決められていたが、今までのナインヘルツとの戦いでは、そこまでの事態に追い込まれたことはなかった。
初めてナインヘルツの検閲にあってから、早三年。
彼らはもうこの土地のことも、ここに住む人間のことも大方、調べがついているはずだ。その気になれば、彼らの力をすれば、この土地を占領することは容易いだろう。だが、それをしないのは、一重にワームの力を図りかねているからだ。

 ワームがナインヘルツと匹敵するほどの力を持っている。だが、それは神代真飛が居た頃の遥か昔の話だ。今では膨れあがる人数に、ワームとして統率が取れているのかも怪しい程だ。
発足されたばかりのナインヘルツで、この世界の重要なシステムを作っていた神代は、ナインヘルツが軌道に乗って来た頃、立て続けに起こったある事件の調査をし、その原因がかつて自分達が造り上げたシステムによるものだと知ってしまった。
 ナインヘルツにそれを訴えるも、システムを即刻止めるべきだと訴える彼の発言は取り入れられることはなかった。
これに絶望した彼は、一緒に研究をし、トリプル・システムに関する論文を執筆した研究者と共にナインヘルツに対し反旗を翻した。そして、今のワームを造り上げていった。
 ナインヘルツにとって、ワームを目の敵にしていることは理解できる。
当時、真飛と一緒に反旗を翻した研究者を執拗に追いかけたのもうなずける。だが、不思議なことに一番の原因である神代真飛自身は、今もナインヘルツに在籍していることになっているのだ。
 不思議なことはそれだけではない。
神代真飛が今、現在どこにいるのか、誰も知る者は居ない。

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