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モノローグでモノクロームな世界

第十部 第四章
二、
 「それであんたは永らく、ワームという反ナインヘルツの組織を率いながら、裏でこっそりナインヘルツを動かしていたっていうのか?」
「自分でも矛盾した行為なのは、君に指摘されるまでも無く、嫌という程分かっているつもりだよ。
 一つだけ補足をするならば、ワームを実際に率いているのは、私ではなく、リトリであり、彼女に意見をするワームの人々全員だよ。
 それにナインヘルツに関しても、私は専ら世界を維持するためのシステムの保守という役割しか手を出していないし、そのスタンスは、私がナインヘルツを退いてから一度も変えていない。
 現在、この世界や各国の政策を決めているのは、各国の代表を中心に構成されている政府組織であり、またナインヘルツの支部だ。」
「・・・・・・あんたが居なくなったところで、この世界のシステムは変わらないのか。」
「君はナインヘルツが無くても、この世界はやっていけると思うか?」
「さぁな。人間なんてそうそう変わらない。学んだはずの事柄ですら、同じ過ちを犯す。だから、また愚かな者が安易に事を起こすかもしれない。
 だが、俺は自分達の生きる世界が偽物であることの方が嫌だ。
偽物の世界で、幾ら何かを築きあげようが、それは偽物でしかないと思ったからだ。」
「副島博士の論文を読んだのか?」
「あぁ。TheBeeの事だろう?」
「今、その装置を破壊するために動いている者がいる。彼は君と同じように、潜在的に色を認知できる能力を持っていた。
 そして、世界には君達のように色を認知出来る者がまだいるはずだ。
私がこんな事を君にお願いをするのは、それこそ君からしたら矛盾している事に見えるかもしれないが、どうか、お願いだ。
これから真実を知る多くの人々を導いて欲しい。きっと彼らは、あの惨禍から地下シェルターを出た我々よりも、もっと強い無力感や絶望感に苛まれるだろう。それに、中には、催眠が解けない者や催眠を自ら解こうとしない者もいるだろう。
 未だ壁の外の世界の安全性は不確かであり、太陽が再び顔を出すかも分からない。だが、それでも君達は、ワームの人々も含めて真実を知る事を選ぶ。嘘をつき続ける事よりも。
ならば、どうか真実を知った人々が生きる事ができるように、本当の意味で生きる選択ができるように、彼らを導いていってほしい。」
「あんたはどうするんだ?このまま、ずっとこの地下に引きこもっているつもりか?」
「・・・・・・ずっと決断が出来ないでいた。
この世界を創ってしまった罪と、
彼女を殺してしまった罪を背負いながら生き続けてきた。
それが、私自身が許される唯一の罪滅ぼしだと思って。
だが、もしも、赦されるならば、私は私自身の幕引きをしたい。」
「それが答えなのか?」
「あぁ。私は長く居すぎてしまった。
新しく動き始める世界に、私は必要ないだろう。
それに、そろそろ彼女も赦してくれそうなんだ。」

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