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アラベスクもしくはトロイメライ

第一章『私達の頭はもぎ取られた。胴体はもう無い。足が二本と頭だけの私達は、地を彷徨い続ける。』

一、

 真っ白な雲がどんよりと重く立ち込めていた。

手を伸ばしたら届くかな。そう言っていた彼女は、空に飛び立つのとは真逆の、冬の海へと沈んでいった。伸ばした手も届かない、深い奥底へ。揺らぐ髪も、ゆっくりと閉じた瞳も、静かにほほ笑んだ風花の顔もこれから先、私は一生背負っていくのだろう。花園風花がそれを望んだように。

 「私とゲームをしない?」

そう彼女が告げたのが木漏れ陽が美しい十一月の頃の事だった。質問の意味を問い返した私に対し、風花は屈託のない笑顔を顔に張り付けたまま、好きな子の噂話をするように私の耳元で囁いた。

「砂奈ちゃんの秘密と私の秘密、お互いにその秘密を暴きあうの。先に正解した方が勝ち。どう、楽しそうだと思わない?」

そう話す彼女は、やはり屈託のない無邪気な笑顔をその顔に貼り付けたままで、それがひどく怖かったのを今でも鮮明に覚えている。それ以上、私は何も返せないまま、ただ平静を装い続けた。

 彼女との仲はその日からもクラスメイトとして無論、変わらずに続いていたが、私はなるべく自分から彼女に接触をしないように、今日まで心がけてきた。だから、はっきり言ってこの現状は、私にとって不快だったし、不本意ですらあった。

 真冬の海岸沿いに立つ私たちの足下を冷たい北風が攫っていく。

「待って風花。こんなこと止めようよ。きっと皆、悲しむし、やっぱり良くないよ。」

ありきたりな言葉しか言えない私には、きっと風花を止めることはできない。それは解っていたけれど。それでも誰だって、目の前の人がいなくなる、それも自分のせいでと解っていたならば、必死になって引き留めるだろう。

「バイバイ、砂奈ちゃん。」

けれどと言うべきか、やはりと言うべきか。私のありきたりな言葉に、風花はふわりと笑うと暗い海の底へと旅立っていった。

誰も手が届かない、永遠の孤独の中へと。


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