モノローグでモノクロームな世界

第三部 第一章
三、
 鉄塔を抜け暫く歩くと、それまでの道のりの寂しい景色から一変した。
町を南北に貫く大通りの両端には、一分の隙間すらも許さないかのように、鉄パイプを組み立てただけの簡易な屋台が軒を連ねている。パイプからはどの店も真っ白な布をたなびかせている。その下で生きる人々は、皆、十月国で暮らす人々よりも活気に溢れているように、僕の目には映った。
 籠一杯に生鮮食品を詰め込んだ商人。珍しい布の服を着こんだ人々。
飛び交う威勢のいい掛け声や笑い声。
それは決して十月国では見られない光景だった。

サカイは別物だ。

そう話していた貿易商の男の声が、僕の耳奥で谺した。
彼が言うように、サカイは壁のどの国とも違っていた。
ここは、僕らが忘れてきた世界だった。
否、ここは僕らが忘れようとしてきた世界だった。

 大通りに立ち並ぶ屋台を眺めながら歩き続ける。
全てに終わりがあるように。サカイの端は唐突に訪れた。
最後の一軒が寂し気に布をたなびかせる中を、僕はそれに近づくため歩き続けた。
行く手を阻む門。
そこはサカイの闇市へと続く門だった。

貿易商の男はかつて僕に警告をした。
サカイの闇市の先がどうなっているのかは誰も知らないと。それは、誰も、戻っていないからだと。
彼が言うように、この扉の先がどんな所かは見当もつかない。この扉の先に何が待っているのかも。
それでも、もう後戻りなど出来ない。
 ただ、知りたいのだ。
何故、マドカは僕の前であんな死に方を選んだのか。
そして、何故、僕だったのかを。
「移し色に哭く子供達」
男から貰ったサカイの闇市に入るための言葉を思い出しつつ、僕は恐る恐る巨大な真っ黒い門に向かって声を発す。
だが、しばらく待ってみても、何の反応もない。
本当に、この門の先で誰かが聞いているのだろうか。
僕が戸惑いつつ、もう一度口を開きかけた時だ、黒い扉の向こう側から、
子供の物と思われる高い声が帰ってきたのは。
「雨音は今日も優しい」
「「僕達は永遠を知らない」」
辺りを立ち込める霧の中で、調子を合わせた僕らの声は、天へと舞い上がるかのようにゆっくりと空へと消えていく。
やがて。
黒い門は重い音をたてながら、徐々に左右へと開かれていく。
扉の向こうで、僕を待っていたのは、まだ年端のいかないあどけない表情の少女と、長いローブを身に纏った初老の男だった。

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