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モノローグでモノクロームな世界

第四部 第三章
三、
 今の私にできる最善の策は、さっさとこのマンションから出ることだ。そう分かっていても、他に居場所の無い私は、未だにその決心をつけることができなかった。

 代わりに私がした事と言えば、ひたすら文字を書き連ねることだった。
楽し気に始まった物語は、まるで私自身の心情を写し取ったかのように、苦しみと絶望、寂しさと懺悔、後悔が詰まった作品へと変貌を遂げていった。
私は確かにこの時、書く事で救われ、書く事でかろうじて自分という核を失わないでいることができたのだろう。こうして、思い付きで始めた行為により、私は救われ、そこに確かに私が居たという軌跡を残すことができたのだ。

 彼は、私に全てを話してくれた。バイト先で彼女と出会った事、私の事を相談しているうちに、次第に深い仲になったと。
彼女は、それは善き相談相手となったことだろう。偶然なのか、偶然でないのかは、今となってはどうでも良いことだった。
彼の中で、私は今でも守りたい存在なのだろう。
だが、彼の中で私は一番ではなくなった。ただそれだけだ。始まりを告げなかった私達のこれが結末。

 連ねた文章は、後悔と懺悔を色濃く纏い、飛び立てないまま、やがて終着地へとたどり着いた。
一つだけ、決めていたことがある。
この話を書き終えたら、真飛の目の前から消える。
一ページ、一ページ、文字を刻みつけるように、私は私自身に傷を重ねていく。
一ページ、一ページ、文字を刻み付けるように、私達の時間が終わっていく。
一ページ、一ページ、文字を刻み付けるように、私は自分の羽根を捥いでいった。
終わらせたい。
終わらせたくない。
終わらせたい。
終わらせたくない。
そう呟くように、吐きながら、もう全て終わらせたいと何度も願い、祈り続ける。
そうして、笑った。

何度も深く傷を重ねることで、私は私自身を保ち続け、己の気持ちを隠したまま、偽の笑顔で笑い続けた。 

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