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アラベスクもしくはトロイメライ 3

 「だから花園さんが死んだ原因を調べるんですって。それで警察が近々入るから、私達1Bの生徒にも話を聞くことになるだろうって。って、聞いてる?砂奈さん。」
石澤さんからその電話を受けたのは、風花が冬の海に飛び込んだちょうど二週間後の事だった。
 石澤蘭佳(いしざわらんか)。
私達1Bの学級委員を買ってでた典型的な優等生タイプの彼女が、私は苦手だった。今時珍しいぐらいにきっちりと編み込まれた三つ編みと芯の強そうな勝気な瞳。彼女は自分がこうと決めたら、それが正しいと信じ込み、我を貫き通す癖がある。たとえ、周りがそれによってどんな被害を被ろうとも気にしない。そういう意味で言えば、石澤蘭佳という人物程、この学園に似合っている人はいないだろう。
純粋な羊には、いつだって、優秀な羊飼いが必要なのだから。
「ねぇ、砂奈さん、風花さんって、その……ただの自殺、よね?」
「ただの自殺なんてないと思うけど。一体、何を聞きたいの?」
「だから、その、ほら、私達のクラス、今ではすっごく皆、仲が良いけれど、その、最初は色々あったでしょ?だから、風花さんが、その事をずっと悩んでていて、それで今になって……とか……」
いつも歯切れの良い石澤蘭佳の歯切れの悪い台詞と内容に私は頭が痛くなってきた。どうにかして、早くこの電話を終わらせたい。
「あのね、風花は言っていたわ。クラスの子達は、私のことが嫌いだったんじゃない。理解できなかった事が許せなかったんだって。」
 『でも、いいの。だって、そのお陰で、私は砂奈ちゃんと出会えたんだもの。それに、理解されないことには、もう慣れてしまったし。ねぇ、砂奈ちゃん、私思うの。出会いなんて、タイミングが全てだって。だから、ここで、このタイミングで砂奈ちゃんに出会えた私は幸運なの。そうね、今では彼女達に感謝しているくらいよ。』

 「風花は、石澤さんが思っているような理由で死んだりしないわ。だって……私が、風花を殺したようなものだし。じゃあね、石澤さん。」
受話器の奥で驚いた声を上げる石澤蘭佳を置き去りにし、私は通話終了のボタンを押した。これ以上、彼女の『心配事』に付き合ってあげる義理はないし、それよりも私にはやらなければならない事が他にある。特に、石澤蘭佳が話していた通り、警察や学校といった他者が、風花の死に関わってくるというならば、猶更、急いで済まさなければならないだろう。
警察はどこまで、花園風花の死について真実を掴んでいるのだろうか。
学校はどこまで、花園風花の死の原因について掴んでいるのだろうか。
 何れにしても、私のやるべき事は決まっている。
全ては、ただ、花園風花との最後の約束を守るために。

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