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モノローグでモノクロームな世界

第三部 第三章
三、
 ブラックアウト。
都市部の町でまことしやかに囁かれてきたその単語を僕も実は何度か耳にした事はあった。僕らが十一歳になると受けることが義務付けられている、衛生プログラム。その衛生プログラムで一定の値をクリアできない状態が何度も続いた場合、ナインヘルツ及び国は対象者に対し、移住を強制する事ができる。
 この世界にある九つの国は、先の大戦を受け、国々の著しい優劣が起きないようにと、徹底的に『平均』であることが義務付けられている。だが、元々ある土地や文化がその土地に根差す限り、僅かながらも国の進め方に差が生まれる事は必須であり、それがおのずと国のレベルとなり、現れてくる。例えば十月国で衛生プログラムをクリアできなかった者は、十月国よりも下のレベルの国へと強制的に移住させられ、そこでまたその国の衛生プログラムを受けさせられると聞く。
 「中には、どの国の衛生プログラムからも漏れる者がいるんだ。彼らの事をブラックアウトと呼ぶ。ブラックアウトした者達は、もう壁の中のどの国ににも住む事ができない。彼らは、そうして、ここ、サカイに辿り着くんだ。壁の中に住む者達は、ブラックアウトした者の行く末なんて、知らないだろう。いや、もし知る手段があったとしても知ろうとしないというのが本当の所だろう。」
「マドカも、ブラックアウト組だったんですか?」
「あの子の場合は、最も本人ではなくて、あの子の父親がブラックアウト組だったんだ。」
「でも、その場合は、確か子供は施設に引き取られ、国の中で育てられるんじゃ。」
「あぁ。だが、マドカはその施設を飛び出し、結局父親を探して、ここまで辿り着いたんだ。当の父親は、とっくのとうにサカイで姿をくらませたっていうのにな。」
「そんな・・・・・・。」
二の句が継げなくなった僕の代わりに声を発したのは、それまで黙って僕の隣で医師の話を聞いていた流雨だった。
「道で倒れているマドカを発見したのがクジョウだったんでしょ?」
「あぁ。随分前のように感じられるな。
・・・・・・まさか、私よりマドカの方が先にいっちまうとは、あの時は露程にも思わなかったな。」
 感慨深げにそう話す医師の声を遮るように、突然辺り一面を切り裂くような、警告音が支配した。
さっと、流雨と医師の顔に、緊張が走る。
只事ではないその表情に、僕は身を強張らせた。


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