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アラベスクもしくはトロイメライ 2

 花園 風花。
お花畑から飛び出してきたような名を持つ彼女と初めて出会ったのは、私達が真新しい制服に身を包んですぐの事だった。淡いブルーが基調だった中等部と異なり、濃紺が基調のその制服は、デザインが同じでも私達には新鮮で、中身は数日前と全く変わっていないというのに、皆、少しばかり大人になったような気がして舞い上がっていた。その中で、花園風花ただ一人が、落ち着いていたように思う。透き通るような肌も、栗色の髪も。考え込む時に見せる宙を見つめるその癖も。私達は皆、気づけば見慣れない彼女に夢中になっていた。
 そう、彼女はこの三百人強の少女達の中で極めて異質だった。学校という閉鎖空間の中で、私達は同じ物を身に着け、同じ言葉を発し、同じ考えを共有する群れだ。その中で彼女は最初から、いや、最後まで異質であり続けた。   クラスメイト達は皆、この学園のルールを教える名目で、彼女を群れに押し込めようとした。時には言葉巧みに、時には力づくで。だが、どの方法を用いても、彼女は個であり続けた。
 理解できない一匹狼。あぁ、そういえばこのクラスに同じのがいたっけ。   そう誰が言ったのかは解らないけれど。同じ制服を着て、同じ笑顔で笑う彼女達は、そうしてある終着点を見つけた。
1足す1は2、よろしく、一匹狼同士を群れとして扱う。誰にも属さない、それがあの子達のスタンスなのだと。
「はの次はひ。よろしくね、樋賀砂奈ちゃん。」
そうして、私は風花と出会った。

 もしも、花園風花に出会わなければ、私は今こんな風に誰かに追われることはなかったのだろうか。それともこの運命は既に決まっていたことなのだろうか。
「全ての細胞は死に向かっていくのよ。まるで破滅型のジェットコースターね。」
そう言っていた風花はもういない。
「そうだね、風花。私たちはとてもよく似ている。」
破滅型の細胞を持つ私達は、坂道を転がるように堕ちていく。
落ちて、堕ちて、朽ちてー。
そこで貴方は笑っていてくれる?
私の最後の無様な結末を。
私の最後の物語を、貴方は気に入ってくれるかしら。                                                 


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