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モノローグでモノクロームな世界

第四部 第二章
二、
 長閑で暖かな木漏れ日が降り注ぐ公園で読むには、些か不適切だったかもしれない。家に帰る間も惜しみ、近くの公園のベンチに腰掛け、買ったばかりのその本を数ページ読み始めた私は、少しだけその事を後悔した。
だが、文字を追い続ける目を、頁を捲り続ける指を、今更止めることはできなかった。
 ライトブルーの表紙を捲ったその先に居た彼女は、想像していた姿とは全く異なっていた。それどころか、とてもよく似ていたのだ。私自身と。
孤独に怯え、人の輪から逃げ出し、自分の殻に閉じこもる。
ただ違うのは、彼女が辛い現状を受け止め、乗り越え、こうして今や自分の事を作品として昇華できている事。

 足下に転がって来た黄色の小さなボールを、ことことと小さな足で駆け寄って来た女の子に返しながら思う。
大人になれば、もっと楽しい未来が待っていると漠然と幼い私は思っていたことを。
だけれど、現実は全く違っていた。
 思い返せば、この町に出てきた時もそうだった。
だけれど、今がそうであるように、現実は全く違う。
本当は解っている。
彼女と異なり、私は、自分を取り巻く事柄からただ逃げ出すことしかしなかったから、現実はいつだって私に残酷であり続けたのだ、と。
いつかは立ち向かわなければならない。そうでなければ、きっとこの先の私の現実も今と大差、変わらないものであり続ける。
本当はそんなことは私自身、とっくの昔に気づいているのだ。
だが、そう分かっていても、なかなかその足を踏み出すのは怖い。
皆がどんどん先に進んでいき、私だけがいつまでもこの場所に留まり続ける
妄想にいつだって取り憑かれている。
頬を人知れず伝う涙を、静かに吹く風が凪いでいく。
この先、何処に行っても、
この先、誰の隣にいても、
このままではきっと心から笑えない。
それでいいの?本当にそれでいいの?
答えは解り切っていた。

 膝に置いた本の表紙をそっと閉じると、私はベンチから立ち上がった。
冬の日暮れは早い。
いつの間にか、すっかり静まりかえった公園の中を独り静かに歩く。
所々に立つ街灯の下で自分の影を揺らしつつ、考えていた。
私はいつから心から笑えなくなったのだろう、と。
いつかのように心から笑う為には、一体何をするべきなのだろう、と。


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