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アラベスクもしくはトロイメライ 13

第三章 四

 人を殺してはいけません。
他人を殺してはいけません。
自分を殺してはいけません。

自分を殺してはいけません。

そんな当たり前のことを壊そうとした。もう、何度も。
それなのに、いつだって直前で止めてしまう。
どんな方法でも、最後に必要なものは成し遂げようとする確固たる意志だ。
そう解っているのに。
明日から逃げたいと、もう何度も願っているというのに。
それなのに、私はいつも直前で止めてしまう。
怖い。
ただ、単純に怖い。
そんな馬鹿みたいな理由で。
なんて、私の意志は弱いのだろうか。
いっそのこと、意識と行為を切り離すことができたならば、楽だっただろうに。

やり方だって、イメージだって、何回も繰り返した。
これは学校の勉強と同じ、ただのミッション。マニュアル通りにやればいいだけと、そう自分に言い聞かせても、いつも失敗し、その度に私は壊れていく。
後何回、謝れば赦される?
後何回、失えば赦される?
後何回、壊せば私は赦されるの?

 いつも何かを探していた。
このぽっかりと空いた空洞を埋めてくれる何かを。
でも、いつも見つからない。見つかったような気がして、今度こそはと期待をし手を伸ばすけれど、いつの間にかそれは砂のように指の隙間から零れ落ちていく。

 砂奈ちゃん。
お姉ちゃん。
そう呼ばれて、振り返ったけれど、道の先には誰もいない。


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