雑感⑥お手紙

初めて自分のケータイを持ったのは、二十代半ば。

私の周りで、みんなが持ち始めた、ごくごく普通のタイミング。
都会と地方とでは、全然違うのかもしれないけれど、体感としては一般的に普及し始めたのがその頃だった気がする。

ドレミ、の音階を打ち込んで、着メロ(!)を作っていた、今から見たら信じられないような、そんな、まだ2000年にもなっていなかった時代。


だから、二十代半ばまで、つまりケータイを持つ前に付き合っていた男とは、LINEはおろか、メールすらしたことがない。

連絡手段はもっぱら電話。ていうか唯一みたいなもの。

そこにお手紙が加わる。

遠距離恋愛だったりすると特に。



お手紙は、お店で便箋を選ぶところから、もう相手のことを想っている。

家に帰って、書いて見たら、あれ、意外とこのペンでは書きにくい、なんてこともあるけれど、時には下書きなんかもして、書いてゆく。

今思えば、それは、自分自身と、ただ手紙の先の相手とだけつながっている時間。

今の時代には、意識して作り出そうとしないとなかなか持てない、余計な誰ともつながらなくていい時間。


書いてから、ポストに入れた後の時間も、私は好きだ。

相手に届くのを待つだけの時間。

ふとした時に相手を思い出しながら、私は自分の書いた手紙の文を頭の中で反芻する。

ちゃんと伝わるかな、って。

そうして、何て言葉を返してくれるのかな、って、寂しくなく、待つことができる。

届いた?とか、届いたよ、とかっていちいち電話したりはしない。
それは不粋だ。


あとは郵便受けに、相手からのお返事が届くのを待つだけ。



こうして書いて見ると、待つ、って本来、とっても豊かな時間なのかもしれない、って思えてくる。

そうして、今はその、待つ、ことをなかなか許してもらえない時代のような気もしたり。

いろんな場面で、いろんなことを、私たちは急かされて生きている感じ。


子供が、友達とLINEやってるのを何となしに見てると、すごいスピードでやり取りが続いてるよね。ひっきりなしにピコンピコンって音が鳴って、上手な人の卓球のラリーみたい。

昔はよかった、とかいう気はない。
メールもLINEも便利だし。
何だって、道具が変われば、その道具に適した使い方が生まれてくる、それは言葉だっておんなじだと思うから。

でも、短文やスタンプの羅列とはまた違う、時間と手間と、待つ間の豊かな時間とか、全部含めて、私はお手紙が今でも好き。


私が手紙好きになったのは、当時付き合っていた男がたくさん書いてくれたから。

私より数段頭のいい男で、難しいこともたくさん知ってたけど、いつもやさしい言葉で、私に手紙を書いてくれた。

その男の言葉は、なぜか私にとっては、鏡みたいというか、その男の言葉を通してしか、覗き込めない私の心の中の一角があって、私は、そうやって自分の心の中を覗き込むのが好きだったのかもしれない。
ああ、私ってこういう人間だったんだ、って新鮮な気持ちで思える瞬間。

私も気持ちを伝えたくて、ない頭を絞って書くようになったけど、結局、その男とも一年もせずに別れてしまった。

別れてから未練がましく、手紙を書いたことがある。
なんて書いたかは忘れたけど、重い内容だったとは思う(笑)

ただ、その時思った。
こんな重い気持ちが80円で届くんだったら、安いもんだよなあ、って。

当時は確か80円で手紙が届いた。ハガキは50円。
ここ最近は郵便料金はどんどん値上がりしてて、そしたらちょうどさっき、ニュースアイコンというの?そこに、定型郵便84円から110円に値上げ、なんていう表示が出た。
何か面白い。

こうやって時間は流れていって、いろんなものが変わっていって。


付き合った期間の割には多くたまった手紙はなかなか捨てられなくて、全部捨てたのは結局、結婚してから五年も経ってからだ。

捨てられなかったのは、未練とかではなくて、その男の言葉が好きだったから。
それはずっとそうで、事ある度に、私はその男の言葉を欲していた。
でもそれは叶うこともなく、私は、小説だとか、ツイッターだとか、そういうものに言葉を求めていた。

だから、今このnoteやってるのも、自分の思いを書きたい、っていうのと、誰かの言葉に出会いたい、っていうのとどっちもあるかもしれない。

言葉が好き、な私は、もしかしたら、言葉を紡ぎ出す、言葉の背後にいる人間こそが好きなのかもしれない、っていうふうにも最近思えてきた。
その言葉を紡ぐまでのその人の人生とかバックグラウンドみたいなものにちょっと触れたりするのは、私にとってはぞくぞくするくらいエキサイティングだ。

目にした言葉にインスパイアされたり、見えるはずのない景色が浮かんだり、新たな発見があったり、あるいは書きたいことが出てきたり、それは時には、返歌のように。

そんな、人と人とのやり取りは、やっぱり楽しい。

一対一の手紙のやり取りよりも、もっともっと開かれてる、やっぱり豊かな世界だと、そう思える。




















おもしろかった、いいこと知った、そんなふうに思っていただけましたら、サポートいただけますと励みになります✨