小説|殺させて 一殺目
高校三年生の一年間は、短く過酷で早い。夏が近づくこの時期に指しかかれば、進路の話題ばかりが生徒たちの周りを取り囲む。親や教師に向けられる視線やプレッシャーを背中に感じながら日々を過ごし、己の未来を考える。それが今の私の、私たちの日常。
あーあ、退屈…。
授業も進路について考える時間も周りの人間の言葉も。すべて平坦な道に並べられた平凡な言葉の羅列にすぎない。皆口を開けば、勉強勉強。勉強をしろ、それが学生の本分だとか言うんだろうどうせ。
でも、それだけだ。私たちに求められていることもやることも勉強しかない。退屈で機械のようにそのときそのときをただ消化するだけの日々。退屈だ。
刺激が欲しいわけではないが、退屈よりもマシな日々が欲しくてたまらない。退屈から抜け出したい。抜け出させてくれる何かがほしい。何かを与えてくれる誰かに、会いたい。
「水沢さん」 「はい……?」
閉ざされた口から出たのは、音になっているかも分からない気の抜けた返事。反射的に顔を向けた先には咎めるような目線を向けてくる、数学教師。そこでやっとここが教室であること、自分が授業を受けていることを思い出した。
「聞いてたか?聞いてないだろ。」
私の机にコンコンッと拳を打ちつけながら警告してくるのを横目に、これから始まる説教を聞き流すたの体勢に入る。
まあ、つまりあれだ。優等生な感じのやつ。姿勢を正して先生の目線を受け止めてから黒板の問題を目で追う。自分で言うのも何だが、私は優秀なのだ。
「すいません、考え事をしてて……。θ=π/4のとき最大値は、2√2です。」
最後に首を傾けて笑顔を添えてやると、教師は悔しそうに…正解、と小さく言い残して私から遠ざかる。その問題の説明を一通り黒板に書き示していく後ろ姿につい、ハッと乾いた声が漏れる。
生徒に恥をかかせたいなら、人を選ぶべきなのに。こういうのを滑稽と言うんだろう。
あーあ、やっぱり退屈だ。
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