タバコの匂い
雨の夜道、ふと久しぶりの匂いがした。
ヘビースモーカーだった祖父の車の空気。クラブに漂っていた煙。キスの苦さ。小学生の私の横に座って教えてくれた先生の、ニコチンとミントが混ざった胸を突くような口臭。
一瞬で時系列を無視した走馬灯が流れる。
横を見ると、背中を丸めて通り過ぎる男性の指にタバコが挟まっていた。
マスク生活で、外出する時も無臭空間を泳いでいる中、4重のフィルターを突き抜けて鼻に届いた匂い。
喫煙者に厳しい世の中になり、今では周りで吸う人をほとんど見かけなくなったから、なおさら珍しく感じる。この苦く刺さるタバコの香りは、もうすぐ絶滅するだろう。
ほんの少し海馬をざわつかせたノスタルジーは、煙と共に雨に溶けてすぐに消えていった。
読んでいただき、ありがとうございます!勇気100%になるので、もし良かったらサポートお願いいたします。