受診のタイミング

私がこのシリーズをnoteに書き始めたのは、皆さんに自分のコンディションにより関心を持ってもらえたらいいな、というのが一つ。それからいずれ訪れるであろう回復プロセスを自分にために記録しておきたいというのが一つ。その二つが大きな理由です。

ですので、ここに立ち寄ってくださる方が自分自身のコンディションに関心を持って、セルフケアに積極的になってもらえたら嬉しいし、ケアをする仕事をしている専門家として自分がたどるプロセスを記録して何かの役に立てられるといいなと思っています。

前回は“ふだんの自分”について書きました。人間は生き物なので、体調に波があるように心の状態にも波があります。それがふつうです。健康と言われる状態はその波が大波になる前に“ふだんの自分”に戻れる状態のことを言います。

腹が立って眠れない日があっても、翌朝には気分が落ち着いて、気持ちを切り替えて仕事に行くことが出来たり、気圧の変化で頭痛がしても痛み止めを飲むとおさまったり、大仕事を前に緊張で食べ物を吐いてしまってもその仕事が終わればちゃんと食べられたり…といった具合に原因や対処法が分かっていて、多少の不調があっても小波でおさめられているのが“健やか”であるといえるでしょう。

今回の私は小波では済みませんでした。毎朝、「いつ、どうすれば職場にできるだけ迷惑をかけずに退職できるか」というしんどい問いとともに一日が始まるのです。それを思うとご飯を食べていても涙が出るし、帰り道にも道すがら泣いてしまうようになりました。

以前のように愛情を持って接してきた部下や患者さんに愛情を持つことが難しくなり、むしろ煩わしさが先行するようにもなりました。それにメールの読み落としや会議の日時の勘違いといった些細なミスが頻発するようになりました。

これらが自分で感じた“ふだんの私とは違う異変”です。「ああ、これはかなりまずいな」そう感じました。ご飯とか睡眠とか、趣味とかは変わりないんですよ。それでも私にとって、これらの異変は無視できないものでした。

多くの人は、眠れないとか食べられない、もしくは出勤(登校)できないといったことを契機にメンタルのSOSを感じると思うのですが、実際にはもっと前から“ふだんの自分”に戻れない、あるいは戻りにくさみたいな変化があるんじゃないかなと思います。でも、そこを我慢したりスルーしたりして、いま書いたような不眠や食欲不振、引きこもりになってから(解決に向けて)動くというのは実は大変です。お薬が効きにくいくらい症状が重くなっていることが多いからです。

エネルギーが枯渇していると

→少ないエネルギーで受診先を探す

→じっくり検討できずうまく探せない

→勇気を出して受診する

→薬が処方される

→服薬してみるが効き目が実感できない

→主治医を信頼できない

→転院先を探すエネルギーも勇気もなくなってしまう

→ひとによっては治療中断してしまう

主治医も初診で症状の重さに見合った量のお薬を多めに処方するのはためらうので、まずは軽めのお薬を処方してみることになり、よけいに薬効を実感するのが難しいということもあるかもしれません。

私は専門家としてそんな悪循環に陥ってしまう人をたくさん見てきました。なので、自分は食べられているし、眠れてもいるけど、受診をしてみることにしました。とはいえ、本当のことを言えば自発的にではないのです。

まずは上司に先ほどの異変(ふだんの自分との違い)を相談してみました。急に休むとか、急に辞めるといった形で迷惑をかけたくなかったからです。するとその上司から受診を勧められました。上司はその受診の提案をすることをずいぶんためらっていたようでした。メンタルの問題というのはそれくらいデリケートな問題だからだと思うし、相手によっては上司から精神科の受診を勧められるだけでショックを受けることもあるからだろうと思います。

でも私はその上司の勧めに対してシンプルに「なるほど」と思いました。自分には仕事を辞める選択肢しかなく、いつどのように辞めるかしかなかったのですが、まずはこころのベース(調子)をお薬で整えてから今後のことを考えるのもいいかな、と。私は“ふだんの自分”が病院や検査に心理的に抵抗が少ないタイプなので、上司の言うことももっともかなと感じたのです。が、ここら辺の受け止め方は“ふだんの自分”が病院にどんな印象を持っているかとか、その上司との関係によるのかもしれません。

ただ、どの病気にも言えることですが、早期発見・早期治療は回復の基本です。“ふだんの自分”への戻りにくさを感じたら…

・ベーシックなお薬の種類と量が効く間に

・自分に合う(と思われる)医療機関や相談機関を自分で見つける余力が間に

・そこが合わなければ転院する余力がある間に

受診をするのが良いかと。

受診をするタイミングは一般に思われているよりも、もっと手前にあるのではないかと思います。

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