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2022年、私の収穫ーボディ・ポジティブを歌う洋楽ー

Lizzoとの出会い

今年、私はLizzoというアーティストを知った。Lizzoが楽曲「About Damn Time」全米シングルチャート1位(7月30日付)を獲得する少し前の2022年7月初旬、私はそのミュージック・ビデオを初めて観た。

太く、大きな体型の彼女がパフォーマンスをする姿は本当に輝いていた。歌声のパンチといい、ダンスのキレといい、時折見せるひょうきんな表情といい、フルートを奏でる姿といい、演者としての彼女の存在を知れたことが嬉しかった。(「遅いわ!」という突っ込みが聞こえてきそうだ。)

彼女に注目しているとアーティストとしてのLizzoが背負っているものが見えてきた。中でもエミー賞の受賞式でLizzoが語った内容が実に感慨深いものだった。

「幼い頃、私はただただ自分をメディアの中に見たかった。私のように太っている誰か。私のように黒い誰か。私のように美しい誰か!その頃に戻って、小さなリゾに何かを言うとしたら、こう言います。そういう人を見ることになる、でもそれはあなた自身がやらなきゃいけないよ!」(*1)


そうか、Lizzoがメディアに露出する意義というものはこういうことだったのかと啓蒙させられた。
メディアが映し出す人物の容姿が画一的であればあるほど、私たち視聴者はその姿だけを美しい・正しいものとして捉えてしまう。例えば、「細い」体型や「白い」肌等がそれに該当するだろう。それによって多くの人の中に「容姿に対する正解のイメージ」が刷り込まれてしまうのだ。私もまた日本で生きていく中で同様の刷り込みを受けてきたと思う。そして、“正解とされる像”と“自身の容姿”との差異を感じながら生きてきた。その結果、自分自身の見た目をコンプレックスだと捉えるようになっていったようにも感じる。例えば私はこれまで「どうして自分の足はこんなに太いのだろう。」「なぜ自分の肌の色はこんなにくすんでいるのだろう。」といったことを考えてきた。今も私はスキニーパンツのような足のラインがはっきりわかる服を着ることに抵抗がある。自分の見た目を肯定することは容易なことではないと感じるのだ。しかし、それは各種メディアが「美脚」「美白」などという言葉を用いて、「こういう人が美しい」という固定概念を植え付けてきたからではないだろうか。
だから、私にとってLizzoのような人がアメリカの音楽市場の最前線で活躍している事実を知れたことは非常に大きな意味を持っていた。メディアが映し出す人物の見た目が多様であれば、私たちはある決まった人物像のみを正解だと思わなくて済む。そして、自分自身を受け入れ、自分の体型を愛することに少しでも近づくことができるのだと思う。

Jaxの「Victoria’s Seacret」という楽曲

Lizzoの存在を知った少し後、8月13日付の全米シングルチャートでJaxというアーティストの楽曲「Victoria’s Seacret」が83位に初ランクインしたことを辰巳JUNKさんのTwitter(*2)で知った。

この曲の詳細についてはコスモポリタンの記事(*3)をご参照いただきたいのだが、Jax自身が10代の時に「自分の体型」と雑誌などの広告で打ち出される「美しい(とされる)体型」を比較してしまったことから摂食障害になった経験がこの曲で歌われている。
また、この曲のタイトルは、米国の大手下着ブランド“Victoria's Secret”からそのまま拝借していて、「Victoria's Secretのような広告イメージが私たちにプレッシャーをかけているんだ」と暗に訴えているのも痛快である。
ちなみにこの曲はTik Tokでのバスりを契機に、全米シングルチャートでの成績を着々と伸ばし続け、最高位35位(10月22日付)まで登り詰めた。
こういう楽曲の登場を知って私は非常に嬉しかった。なぜなら前述したLizzoと同様にこの楽曲も「美しい体型とはこういうものだ」という先入観から私を開放するものだったからだ。

Lizzoの存在やJaxの楽曲を知って、私は洋楽が表現する価値観がずいぶん変わったように感じた。なぜなら今から10年前、私は高校生だったが、こういう楽曲はほぼ無かったように記憶しているからだ。いや、私が単純にこういった情報収集に疎かっただけなのかもしれない。とにかく、今よりもっと若い時期にこのような価値観に触れていたかったなぁと感じた。

ボディ・ポジティブ

先日、この夏にリリースされたLizzoの新しいアルバム「Special」を自分への誕生日プレゼントとして購入した。その日本語解説はLizzoが打ち出す「ボディ・ポジティブ」(*4)という思想を軸に据えてこれまでの彼女の功績や各楽曲についてを紹介する内容で、非常にためになるものだった。是非「Special」の購入を検討されている方は日本盤を手にいれてほしい。
2022年はこれらのアーティストと楽曲に出会って、新たな価値観を自身にインストールすることができた。本当に大きな収穫だったと思う。「私が美しいかどうかを決めるのは他人ではない、私自身なのだ!」と日々自分に言い聞かせて、2023年も生きていけたらと思う。


*1: FRONTROW 9月13日の記事よりLizzoのスピーチ内容の和訳引用



*2:辰巳JUNKさんのTwitter投稿


*3:Cosmopolitan8月16日のJax「Victoria's Secret」の記事

*4:ボディポジティブ(または ボディ・ポジティビティ)とは、「痩せた体型=キレイ」という従来の美の定義から外れ、プラスサイズの体をありのままに愛そうというムーブメントのこと。(以下URLより引用)


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