短編小説

盲目の人と、自分の顔にコンプレックスを持った子が恋に落ちた。2人は愛し合った。盲目の人は、こんなに素敵な人の顔はどんなに美しい事だろうと言った。早く見たい。しかしそう言われる度に女の子は悲しい気持ちになった。

ある日、凄腕の医者が現れ、盲目の人が手術をする事になった。つまり、目が見えるようになる。それは素晴らしい事だった。それはまさに盲目の人が望んでいた事だし、チャンスが無ければ決して開かれることのなかった世界が広がる。しかし、女の子にとってそれは手放しに喜べる事ではなかった。

手術が成功する事はもちろん喜ばしい事だ。だが私の顔を見た時、その醜さに二度と同じように自分のことは愛してはくれないだろう。手術をしたが最後、この愛はもう私の元に留まっていてはくれないだろう。その思いが首をもたげて、彼女の頭を離れなかった。だからと言って、愛する人のチャンスに反対するわけにはいかなかった。

喜ばしい事なのに、辛かった。彼女は毎晩、一人枕を濡らした。そうするうちに手術の日は近づいてきた。彼を失う悲しみは大きく、彼女には本当に辛い決意であったが、ついに彼の夢を応援するという思いが固まった。

手術の前の日、彼女は彼にその胸にあるありったけの気持ちを語った。どんなに自分が彼を大切に思っているか。彼の存在にどれだけ救われたか。それを聞いた彼がどんなに嬉しかった事だろう。2人は抱き合って泣いた。彼は、こんなに自分を愛してくれる人のあることの嬉しさで。彼女は、もうこれが最後なのだという悲しさと切なさで。

手術が終わった。サングラスを外し、彼は初めて彼女の顔を見た。「これで、終わりだ」彼女はそう思い、悲しくも、たくましい表情で彼を見つめた。するとどうだろう。彼は彼女の予想に反してこう言った。「...なんて美しいんだ...」

彼女は驚いた。自分の耳を疑った。しかし彼は続けた。「もっと近くに来て。顔を見せて」彼女は恐る恐る彼に近づいた。「ああ、美しい...愛する人の顔が自分の目で見える。僕に愛を囁いてくれる口。ああなんて美しい目なんだ」そう言って、彼は彼女の顔に愛おしそうに触れながら、優しく見つめた。

彼女の目からは一筋の涙がつたっていた。こんな事があるだろうか。生まれてきて良かった。彼女は初めて、心の底からそう思った。彼は笑って、不思議そうに尋ねた。「どうして君が泣くんだい」彼女は黙って首をふり、微笑みをうかべながら彼を見つめた。そしてこう言った。「これからもたくさん、美しい景色を二人で見よう。色んな幸せを分かち合おう」その言葉に彼もまた幸せそうに微笑み、頷いた。(終)



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?