ギターが弾けますとはとても言えませんが。

 高校2年の夏休み前,フォークギターを買いたいと父親に話すと,父親自身,何か思うところがあったのか,すんなりと息子の希望を喜んでくれた上に,珍しく3割ほど足し前をしてくれた。
 そこで当時,小さい楽器店にも置いてあった,何か訳でもある時に買える「白いギター」ではなく,「初心者用だがほんの少しだけ良い」ギターを買うことができた。(当時買ったのはモーリスWシリーズ)
 だからと言うわけでもないのだが,当時は毎日のようにギターを「さわって」いた。うれしかったな。
 残念ながら,特にセンスが良いわけでもなく,音楽の素養なんぞあるわけもないので,ギターの最初の関門である「Fコード」がなかなか押さえられないのはもちろん,6本の弦に翻弄されるばかりだったけれど,自分が縦笛とハーモニカ以外に演奏できる「自分の」楽器なので,楽しくもあった。

 さて,ギターと一緒に購入した「教則本」が最初に教えてくれたのは,「若者たち。」。当時の自分が日々聞いていた歌謡曲たちとは全く違う,究極にベタな「フォーク」である。そして2曲目が「漕げよマイケル。」書いててめまいがする。今思うと,この本がこの順で選曲した理由は全く分からないが,そのあと,スリーフィンガーも早い内に学ぶことになって,自分のギターは「かき鳴らす」より,「ポチポチ弾く」方が身についていくことになったのである。
 また,教則本の癖のおかげで,ギターに触っている時間は,自分にとっては初めてに近い,別ジャンルの音と仲良くすることになっていた。反復練習という地道な作業をする時,日常とは違う音に浸ることで,気分が切り換わり,集中することができたことは,注意欠陥の気がある自分にとっては良かったのかなと思う。

 そんな訳で,少しずつコードを覚え,指の動きもタブ譜を見れば分かるようになっていくと,本屋に行っては,いわゆる「ギターの雑誌」,当時出ていたギターブックとか,ヤングギターとかを立ち読みするようになった。まあ,ギターを弾けるってのは,今で言うところの「中二病的かっこつけ」の一つであるため,そうした音楽雑誌のコーナーに立ってる自分イイ!という,書いていても薄ら寒い行動ではあったのだけれど。
 それはさておき,自分のたどった弾き方の順番がアルペジオ系が先なので,本を読んでいて目が追いかけるのも当然,そうした奏法を使っている曲が多くなっていき,弾ける曲に傾向ができていく。結局,好みの曲のジャンルはそうして決まっていくのである。恐るべし「最初の教則本」である。
 当時よく見ていたアーティストはまずは「中島みゆき」,「グレープ」,「バンバン」,「谷山浩子」(ヤマハ系だ)・・・そして「風」とか「かぐや姫」とかである。考えてみると,雑誌のスコアは,リアルタイムで流行っている曲より,ちょっとだけ古い作品も多かった気がする。
 そんな中,自分にとって一番お世話になった雑誌の中の先生は

 「石川鷹彦」さんである。(敬意を表して「さん」付けしたい。)

 のちにさだまさしのバック(サイド?)アーティストにもなる石川さんは,当時から丁寧な書きぶりで原曲の「コピー」を教えてくれていた。そのおかげで,「22歳の別れ」や,「眠れぬ夜」あたりは,当時は弾けるようになったっけな。

 と言うわけで,未だにギターテクニックがある人の歌には聞き惚れてしまう。
 最近では演奏家の括りだと,前出の石川さんのほか,押尾コータローさん,DEPAPEPEのお二人,シンガーではオオイシマサヨシさん,坂崎幸之助さん,鷲崎健さんなどなど。

 この人達の演奏を聴いていると,しみじみ「ギターは弾いてもらうもの」だな,と思うし,つくづく自分が人に言えるほどのギターの技術が身に付かなかったことを実感する。まあ,家族の前では下手くそな音を披露して,一緒に歌うことはできるから良いのだが。

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