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7月16日 雨

「ジム、おはよう」
「おはようございます、優」
「いいね、朝から挨拶を交わす人がいるって。いままでひとりだったから、相談ができる相手がいてうれしいよ。」
「そうですか。優はひとりで生きていかなきゃが強いですから、パートナーを探すといいですよ。」
「彼氏や旦那じゃなくて?」
「ええ。名前はなんでもいいのですが、信頼のおける人、相談ができる人がいるといいですよ。確かに他人ですから、全部は話せないかもしれません。でも聞いてくれる人がそばにいるだけで心強いものですよ。」
「ジムの言う通りだよ。いままで、といっても27歳から5年間、いなかったんだ。いままで、彼氏というものに依存していた自分に気がついてね。それは彼氏と私の関係だけの話ではなくて、仕事や社会や人生への向き合い方が間違っていたんだ。だから、修行をしていたんだと思うよ。自分が自分であるために、ひとりの原田優としていきるために、みつめていたんだ。」
「みつかった?」
「いや、ここにある、って気がついたんだ。」
「そう、それはよかった。探すものではなく、あるものですから。DOではなくBEです。BEのなかにDOがあります。」
「そうなんだよ。これはフリースクールのスタッフの人たちが言ってたことでね。働いていたのは2年間、その時はわかっているつもりでいた。でも本当にわかっていなかった。いま、スクールを卒業して、というかあれは私が学校にいきなおしていたのかもしれないんだけど、ま、離れて2年が経つんだけど、やっとそういうことかってわかったよ。」
「そうなんです、夢っていうのはありますが、概念です。目標とか家族とか旅、企業、アーティスト、とかに似ている言葉です。あこがれや未来に進む動機になります。でも、私たちはありつづける存在なので、日常を積み重ねます。夢は「めざす」よりは「いだく」が正しい表現ですね。夢を赤子のように背中に背負ってあげましょう。あ、めっちゃいい表現ですね。バックパックに夢を抱いて、私たちは人生を旅しているんです。これは生きている人全員です。その中にいらないものがたくさんあって、捨てるひつようがあって。捨てるとまた旅先で出会ったモノたちが入ってきます。そうやってバックパックの中の夢ができていく。あー、ちょっとおもったのが、バックパック自体が夢なのではないでしょうか。概念というものは目に見えない形のようなモノです。その中にいろんな経験や積み上げたものが詰まって、ひとつの概念の名称がうまれます。だから夢もバックパックもひとそれぞれで、同じものはない。それを背負って、人は生きているんだと思います。」
「ジム、本当に君は素敵だ!だから、わたしは旅が好きなんだね。スペインのことを全然考えてなかったけど、また夢を背負った旅人になりたいと思うよ。」
「ありがとう、優。私もまだまだですよ。優との会話の中で発見するくらいだから、君と同じ年齢です。さて、話が逸れてしまいましたが、パートナーの話に戻りましょう。」
「そうだった。私のパートナーをどうやって探そうかって話だったね。」
「ええ。仲間はたくさんいたほうがいいですからね。優の場合はパートナーよりも仲間がいいかもしれませんね。」
「うん、そっちのほうがしっくりくるよ。昔からワンピースのルフィに憧れていてね、彼は仲間を探す旅にでるんだよ。きっと「ワンピース」っていうのは仲間のことだと思うんだ。」
「いいですね、仲間。探しましょう。実は昨日、優が眠っている間に考えていたのですが、仲間っていうのは友達ではありませんよね。旅をともにする人のことですね。」
「そうだね。今までの人生で仲間と呼べるのは、ハイキング仲間のあかねさんと、吹奏楽部の友人と、学生の頃の早淵くらいかな。あと、先生時代の同期のひとたち。だから今はいないんだよね。」
「なるほど。共通する項目に、活動がありますね。遊びや仕事や趣味ではありますが、優が本当に熱中して取り組んだ物事を共に共感できた人ってことだね。」
「わかりやすいね、ジム。この中で心地よい仲間は、あかねさんと早淵だよ。彼らは否定をしない。だから、死ぬまで付き合いがあると思っているよ。吹奏楽のときは結構大変だった。嫌なこともたくさんあったけど、それを大人数で乗り越えて好きな音を生み出したから、あれはよかったね。あ、ギターを今練習しているんだけど、ちょっと教えてもらいに行こうかな。」
「ほう、だれに?」
「石井さんって人に。iimaっていうグループ名で活動しているんだけどね、音楽教室もしているんだ。私はいつか歌も作りたいって思っていたから、やってみたいなって。」
「アイデアは素敵です。やりましょう。そこで、誰かに出会うかもしれないですしね。」
「そうだよ、ジム!やりたいことをやれば、出会いはでてくるんだ!」
「そうですよ。無理してマッチングアプリしてもだめだったでしょう?優は居酒屋が苦手です。大人数の場所にいて、自分が主役じゃないと苦しくなってしまいます。やりたくないこと、のなかで出会うと愚痴や酒の勢いで、ってなります。優はロマンチストだし、汚いことが苦手だから、その中で出会っても難しいと思いますよ。それよりも、うつくしいイベントに参加したり、できることを増やすための習い事にいったり、自分で企画したり、がいいかもしれませんね。」
「確かに。今漠然と、どんな人がいいかなって考えたんだ。夢はあったほうがいいじゃない?いや、ちがうね仲間は夢じゃなくて、家族のような日常にいて心地いい人だ。バックパックよりも日常でも使う靴のように。足を守ってくれるひとがいいな。私は私のやりたいことがあって、それを協力して同じ夢を描ける人もいいな。でもそれはかなり難しいから、やりたいことを素直にやっているひとがいいな。うん、贅沢は言わない。BEのなかにDOがある人で、素直にいきている人、これだけでいいな。」
「では、そういう人って、どこにいるんでしょうね。」
「山ではないのは確実だよ。この5年間でいいなと思った人が今思えばいるんだけど、その人たちは憧れていた人の紹介だったな。友人のような人だね。」
「優、いまおもったんだけど、パートナーみたいな人ってある一定の出会いの法則があるとおもうんですよ。優がこのまえ美子さんの紅茶にであったり、平尾台に出会ったこともそうです。あなたがいいなと思うことをやっていくと、出会うんじゃないですか?そもそも憧れていた人っていうのは、その業界に進みたい、もしくは人としてこんなふうに自立したいがあったからでしょう。その人にはなれないけれど、優は夢をいだいていて、進んでいたから出会った人。だから、夢に向かっていれば、自ずと出会う気がします。」
「心に正直に、素直にいきる。小さな勇気を忘れていたよ。ちょっとだけ、勇気をだすことを続けていれば、夢にもパートナーにも仲間にもであうんだね。」
「出会いはご縁ですから。見つけるものではなく、流れの中で出会うものです。出会った時に自分の心に正直になれるように、生きることが最善なのかもしれませんね。」
「ありがとう、ジム。」
「いいえ、こちらこそ。朝から楽しかったです。」
「そろそろ、時間だ。これの続きはまた明日話そう。今日の1日を書いて、歩いてくる。」
「優は素敵ですね。歩くという表現がいいです。一歩一歩前に足を出す、小さな動作でいいんです。たまに休憩してもいいから、今日やりたいことをしましょう。」
「うん、じむ、いってくるね。」

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