いいいいーいいいーいいいーいい

冷蔵庫へ向かう途中、2つおかしなことに気づいた。1つは、ご飯を食べたばっかりなのにお腹がペコペコだということ。1つは、キッチンでお母さんが死んでいるということ。といっても正確にはまだ死んでいないかもしれかった。いまだに血溜まりが広がっているということは、心臓が動いていて、破けた血管からせっせと出血しているからかもしれない。救急車とか心臓マッサージもまだ間に合うかもしれない。今やるべきこともなんとなく分かったけど、ご飯を食べてから考えようと思った。お腹が空きすぎてそれどころじゃない。

お母さんの死体がもたれるキッチンでは、鍋蓋がゴトゴト音を立てていて、ほのかに酸っぱい匂いを漂わせている。今日はトマトスープだったか。そういえばもう3日も何も食べてない気がする。さっき何食べたんだっけ。腹減ったし忘れた。血でベタつく床を、滑らないよう踵から踏み込むようにしてキッチンに入る。2歩目に何か柔らかいものを踏んづけて、それが僕の体重で千切れた。見なかったけど、踏んづけたのはまな板の上にあった鶏生肉が落ちたものかもしれないし、お母さんの死体から飛び出た臓器かもしれなかった。3歩目にまた柔らかいものを踏み今度はバランスを崩して死体の上に倒れ込んだ。転んだ先から呻き声が聞こえた気がしたが、気にしないことにした。立とうと思ってぐっと腕を立てると、押した先から血が溢れ出てぶちぶちと音を立てた。こりゃとっくに死んでるかもな。ご飯が食べたいからその方がありがたい。応急処置が必要なのに呑気にトマトスープ啜ってたなんて知れたら大事だしな。死んでいてくれ。コンロの前にたどり着いて、消火してから蓋を開けて覗き込んで見る。やはりトマトスープだった。少し掬って飲んでみたが、塩が足らないのかあんまり味がしなかったので、その辺にあったコンソメや塩コショウをたっぷりと入れてやった。うん、これぐらいだと美味しいな。

ピンポーン

厄介な時に来客が来た。インターホンの液晶を覗くと、警察官が立っているのが見える。警察官なんて滅多に来るもんじゃない。きっとお母さんが死ぬとき叫んだりしたのだろう。それが近所まで響いて、通報されたりしたのだろう。

あーあ。

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