夜型の孤独

夜型の夜は長い。
ゴールデンタイムを過ぎた頃に、そろそろご飯の用意をしなければなあとぼんやり思い始め、日付が変わる頃に、そろそろ風呂に入らないとなあとぼんやり思い始める。
そして夜型の家の中は、大体夜型を中心に構成される。
明るいリビングを出て、ひとり静かな寝室へ潜り込むのが、夜型の日常であった。


夜型の朝は短い。
夜が「よ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜る〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」くらいの長さだとすると、朝は「アッサッ」と走り抜ける。そうして息を切らして電車へ駆け込み、息が落ち着く頃に座席が空くと、夜型の二度寝は始ま……….

ま…………..


らない。
夜型は、貴重な睡眠時間を失った。


夜型の昼は重い。
夜型の短い朝には、朝食がない。そのため、睡眠時間分のカロリーと、乗車チャレンジダッシュ分のカロリーと、日が沈むまで働く分のカロリーを摂取しなければならない。
夜型の昼食のカロリーは重く、体内の熱量が増えると、ようやく新しい1日が始まっていることを自覚する。
そしてまた体内のカロリーを消費するために、夜型の瞼は重くなる。


「遅刻した人はこれ飲んで!」と、先輩が夜型の目の前に掲げたのは、鉄分サプリであった。
夜型が今よりさらに深い夜型だった学生時代のことである。
何だかよく分からないが、鉄分と睡眠の質が関係しているらしいということだった。
これまでの例に漏れず、なるべく申し訳なさそうな顔をして稽古場へ入った夜型は、叱るでもなく何故か自信ありげな先輩を眩しく感じた。
爾来、どうしようもなく眠い時と頭がぼんやり重く酸欠気味らしい時は、鉄分が多く入った飲むヨーグルトをちびちび啜るようになった。


鉄分を味方につけ、夜型は仕事をこなす。片付ける。外が暗くなればなるほど、夜型は輝きを放つ。そうだ!これこそが!真の力なんだ!
夜型はゴールデンタイムを好む。1日の中で最も生きていることを実感する。
デスクトップには追っているドラマのキービジュが自己を主張し、その横へ目をやると、オムライスをもぐもぐする推しがカレンダーの中からマイナスイオンを発している。
俺、この仕事が一区切りついたら、夜ご飯買いに行くんだ…。と、届かない誓いを上司にテレパシーで送り、何を夜ご飯にするか頭を巡らすと、
生きていたいなぁ、と豚肉が言う。
このままどれだけ狂わずに生きていられるだろうか、と白米が言う。
推しは変わらずご飯をもぐもぐしていて、目の前のオムライスは、もうこの世にいない。推しは生きてて、夜型も生きてる。

夜型には、忘れられないいくらがあった。また、忘れられない手羽先があった。
そのつっかえを刺身御膳で流し込んで、夜型はまた眠そうに目を閉じた。

夜型は生きていたいと思った。
だから投票に着いて行った。
トンネルに入るとたまに途絶えるワンセグで、開票速報を、AKBの総選挙を眺めるみたいに楽しんで見ていた。
トンネルの中で車の渋滞が起きていて、ワンセグはしばらく途絶えた。
その日は、ハロウィンだった。


夜型は、電車で寝るのを止めた。
より一層ソーシャルディスタンスに励んだ。
横と向かいの乗客が、夜型を二等辺三角形の直角にして諍いをし始める。
夜型の孤独な夜は、長い。

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