春ノ夜ノ夢1

「俺、詐欺師になれるかも」

彼は私を抱きしめながら、そう言った。

(どういう意味、、、？)

わたしは不思議に思ったが、抱きしめられている安心感と気持ちよさで、それ以上は頭が働かなかった。彼の腕はがっしりとしながらも、程よく柔らかく、頼もしいのに、優しかった。

抱きしめられてから、なんぷん経ったのだろうか？私はふと我に返り、彼の腕からやんわりと逃げた。

「ん？どうした？」

彼はこちらを見ている。

「いや、今、何時かなーって」

「何時でもいいじゃん、こっち来いよ」

彼はまた私を引き寄せようとした。私は、なんとなくイラッとして、踵を返して、彼とは反対方向へ歩いてみた。

「おいおい、どこ行くの？」

彼は口ではそう言いつつ、追いかけては来ない。

私は振り向いて、彼に、こう言った。

「私が行きたいところへ行くの。」

「ふうん」

彼は、つまらなそうに言った。

「夕陽がきれいだよ」

「ほら！あなたも見て！」

ワタシが声をかけると、彼は眩しそうに目を細めてこう言った。

「太陽に、ほえろ、、、?」

それは昭和の名作ドラマでしょ、とツッコんでから、私は急にサングラスが欲しくなった。

涙のあとを
サングラスで隠すたびに
少しずつ
強くなれるって信じてた
そんなのおかしいって気付き出した

頭の中で、宇多田ヒカルの「サングラス」が勝手に流れ始める。

つよがってたんだなぁー、長い間

そんなことをぼんやり考えていたら、彼が笑った。

「口に出ちゃってるよ」

「へ？」

「強がってたの？（笑）」

「！」

彼はニヤニヤしている。

「どうせ、あれでしよ？宇多田ヒカルさんのサングラスの歌詞でも脳内再生されてたんでしょ？」

「うるさい」

私は、恥ずかしくなり、足早に歩き始めた。

つづく