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なんの波乱もない家庭5
カナトが小指を痛めたか~。
カズヤは1人、喫茶店でアイコスを吸いながらボーっとLINEを返信していた。
嫁の咲からの返信は早い。付き合った当初から思っていたが、マメな女だな、と思う。
出来心でマッチングアプリも登録し直しているが、嫁ほど面白い女がどうしても見つからない。
俺も厄介な女に捕まったもんやな。
逃げられないとわかりつつ、新しい獲物を追いたくなる性に我ながら呆れ返る。
PSYCHO-PASSの最新回でも観るか。
嫁はとっつぁんが好きだ。以前ドライブデートをしながらPSYCHO-PASSの話になったときに「とっつぁんの最後の女になって抱かれたい!」と興奮気味に話していた。
ジジ専、か。
40代半ばの俺じゃまだまだ渋みが足りんのやろうなあ~などと考えながら、なんの感情もなくLINEの返信をする。
「お疲れ様です♥今日は何食べましたか?」
無視無視。
「お疲れ。12/27なんやけどさ、、、」
お、これは今見とかんとな。画面を開くと、商社マン時代の上司からだった。
「久しぶりに飲まんか?年末で忙しいやろうけど。話したいことあんねん。」
「お久しぶりです。急にどうしたんですか?27日は今のところ家族で大掃除の予定なので厳しいんですが😅」
すぐに既読がついた。さすが、商社マンはレスポンスが早い。
「あんな、俺、会社起こそうと思ってな。お前についてきてほしいねん。年俸は900万円保障する。」
900万円か、、、カナトのことを思うと、悪くないような気もする。
俺は書きかけの小説を鞄にしまい、元上司に返信した。
「検討します。27日はどこで?」
「恩に着る。Cafe広島で14時でどうだ?」
「わかりました。では、また当日その時間に。」
俺は早速Cafe広島をスマホでググった。神戸にもあるし、大阪にもある。まいったな。
元上司に追いLINEした。
「すみません、ちなみに、何県のCafe広島ですか?」
「大阪だ。悪いな、情報不足で。」
「いえ、ここですよね?」
俺は店のURLを送った。
「そうそう、ここだ。そんなに時間は取らせないつもりだ。なんなら、家族を連れてきてもいい。奥さんや子どもにも説明したいだろうし。」
「いえ、まずは僕だけで。」
「だよな。じゃあ、当日、待ってる。」
俺はため息をついた。この上司についていくとなると、家族との時間はますます減るかもしれない。
念の為、嫁の咲にLINEを入れておいた。
「悪い。12/27は仕事が入った。大掃除、頼む😔」
いつものように返事が来た。
「了解。師走やから無理せんごつ♥」
ごつってことは、熊本モードか。火の国くまもと、とは聞いていたが、その影響を受けた嫁の行動力には驚かされることがある。
一時期なんて米粉にハマりすぎて畑で稲穂を栽培していた。
もちろんそのエネルギーは凄いとは思うのだが、俺の前ではもう少し抑えてほしいと思う瞬間も正直ある。
かと思えばPMSで泣き出すこともあるし、とにかくハラハラさせる女だ。
いつの間にか嫁のことばかり考えていた。いかんいかん。仕事せねば。金金金。
俺はまた小説の続きを書き始めた。
タイトルは「広島の朝」
つづく
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