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その9:誘惑続編 絵画小説 荒浪(3)

前置き
著作権が切れた文献を無料公開している「国立国会図書館デジタルコレクション」。10年以上以前、近代デジタルライブラリ—時代からウォッチしている私が、何の専門知識もなくご紹介しております。
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「誘惑続編 絵画小説 荒浪」千葉春村 大正7年
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/907136

前話はこちら。
シリーズの最初から読む場合はこちら。

ところでこちら、信次のロンドンでの親友、春眠。眠りを誘う名前だな。
信次の下宿を訪れ、千代子からの便りが届いている事を知る。しかし信次はまだ手紙を書けそうにないので、代わりに咲子の家にいる(であろうと思っている)千代子に文をしたためるのであった。そして私はもうこれ以上登場人物を増やさんでくれと願うのであった。

春眠からの便りを受け取った咲子。しかし千代子は行方知れずのまま。あ、覚えてます?千代子は人買いにさらわれて幽閉されている最中だからね!おさらいね!
とりあえず信次が無事であったことを一刻も早く千代子に伝えたい咲子。新聞広告を打って出た。
「千代子様 あなたの心配しておいでの方は九死に一生を得て<中略> S子」
千代子の名前を出しておきながら「S子」もあったもんじゃねぇわ。この女、正気なのか
もちろんこんな広告が多澤夫妻に見つからないわけがない。新聞社へ問い合わせ、S子の正体を知ろうという魂胆だ!私がこっそり教えてあげるよ!S子の家は千駄ヶ谷!

一方、人買いの親玉の地下牢へ幽閉されている千代子。同じくさらわれてきた女に「あたしとこの女の容貌は雪と炭ほど違う!」とやきもちをやかれいじめられるのだった。うんわかるわかる。そのノリでいこう!
で、いじめ飽きた女は唐突に懐から南京豆を取り出して食べ、食べ終えたら袋を丸めて千代子に投げつけてふて寝してしまった。新聞紙で作られたその袋をなぜか丁寧にシワを伸ばして読む千代子。
ね、わかりますよね、この展開。やっぱそうですよね!ここで見つけるんですよね!咲子が千代子にあてた新聞広告を!と思いきや、見つけたのは当時流行していた小説「巌窟王」の広告だったなんでやねん!(盛大に)

「巌窟王」の広告に影響され、ピンとかんざしを使って壁を掘り進めようとする千代子だからなんでやねん!!!ここ地下室やぞ!!!本格的にアホだろ!!!
でも何だろう。美人がアホだとホッとするのなんでだろう。いいよ千代子、本格的に巌窟王を目指すといいよ!なぜかって?そっちのがおもしろいからだよ!
さすがすばらしい展開を見せてくれてるよ荒浪!それでこそ荒浪だよ!初めて読んだけど!!!

一方倫敦の信次。幸いにもみるみる回復し、咲子を案じ、春眠を伴って日本へ戻ることに。もちろん涙ながらに引き留めるフローラ嬢。しかし近いうちに必ず戻ってくるからといい加減な約束をして船へ乗り込むのだった。まったく男ってヤツぁ。絶対フローラと何かあったよね。てかあった方がおもしろいんで、ここではそういう方針でいきましょう。

日本へ向かう船上、信次は春眠から、咲子から春眠に宛てて文が届いた事を知らされる。は?どうして君が咲子さんを知っているんだい?そして咲子さんはどうして私ではなく春眠へ手紙を送ったんだい?
そう、なぜならそこには、日本での千代子の悲劇、そしていまだ千代子が行方知れずという悲しい事実が書かれていたかそんなものをあっさり信次に見せるとは咲子の気遣いがまったくの無駄に春眠空気読めよ…。

ところでやっと出てきた鉱山王。千代子のことにばっかり構っておれんわと、ビジネスに精を出している。と言うかもう千代子のこと良くない?かんざしで地下に穴掘って脱獄しようとしてる女だよ?ま私ゃおもしろいからいんだけどさ。
ビジネスでヨーロッパを視察すると発表した鉱山王。ところがその一行に、多澤勇助の名前はなかった。これはイジメだよね。陰湿だわ。鉱山王、意外に肝がちっちぇぞ。
さぁこのへんから場面は無理くり大きく展開していくよ!いまさらだけど!

「助けて下さい!!!」そう叫んで路上へ飛び出したのは我らがマドンナ、千代子だった。そう、ここはシンガポール。(唐突)
脱獄はどうなったのか、そんなことには一切触れないままに千代子は上海・香港・シンガポールと、各地の遊郭へと次々に売られてきたのだ。しかしどこへ連れて行かれるもハンストを起こして(よく生きているものだ)まったく商売には使えない。
そこで這う這うの体で逃げ出したところ、親切な紳士に拾われる。いやほんとにそれ大丈夫なのか?

…と、今回で終わらせようと思いましたが、あまりにもおもしろくて長くなりそうなので、次回に続けたいと思います。
「誘惑」「荒浪」通じて次こそほんとに最後です。すばらしい結末が待ち構えています。乞うご期待!

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