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指の傷と似てるもの

私には縁を切った友達がいて、その人のことをたまに思い出す。思い出されるたびに前は悲しくなったけど、最近は、ああまた出てきてるなぁ、ふーんってくらいになってきた。

だんだん薄れていくんだろうな。

彼女とは当時最も親密(と私は思っていて)で、わりとなんでも話していた。たぶん当時の恋愛については、すべて話していたんじゃないかな。学生だったから時間もあったし、お茶をしたり、遊びに行ったり。

社会人になって会う頻度は減り、関係の中で波はあれども、仲良くしていた。私は友達が少ないけれど、大事な友達で、ずっとこの関係は続くんだろうと思っていた。

彼女からの電話でその関係は終わる。

彼女と、私が前につきあっていた恋人が、今つきあっていて、結婚する、と。

唖然とした。

よくある話だ。ドラマや小説でもよくみかけるし、学生の頃は結婚まではいかなくても、あちこちで誰彼がくっついた別れただのやっていた。

でも我が身に起こると、ショックだった。

その時私は新たな恋に進もうとしていたけれど、前の恋人をずいぶんひきずっていた。彼女にもずいぶん話を聞いてもらった気がする(だんだん記憶が薄れてきている)。

彼女からは、職場の人が気になっていて……という話をずっと聞いていた。あれは全部嘘だったの?その場ではおめでとうとか言ったのかな。もうつらすぎてあまり覚えてない。のどと胸が焼けるような苦しさだった。


本当に落ちこんでしまい、仕事帰りに同僚に話を聞いてもらった。立ち話では終わらなくて、夜遅くまで開いているカフェに行った。

「関係は変わっていくものだと思うし、そのとき大切にできる関係も変わっていくんじゃないでしょうか。」

話を聞いた同僚は、優しくそう言った。

そうか。そうかもしれない。皆を大切にはできない。悲しいけど、彼女から離れよう。

それで、彼女と最後に話をして、別れた。

私にとっては恋人との別れ話みたいだった。つらさはいくつかあった。彼女から裏切られたように感じたこと、親友としての彼女を失うこと、このまま関係を続けても私はもう彼女を信じられないこと。

彼女との関係を終わりにして、ひとつ楽になった。

というのを、ニンジンをすりおろして指を切ったときに思い出した朝だった。


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