ゴジラ ー1.0

申し上げるまでも無いかもしれませんが、鑑賞後の感想文ということで、いわゆる「超ネタバレ」となります。実は私自身があまりネタバレを気にしない性質な上に、むしろ「先に情報を入れておいて実地で答え合わせ」という鑑賞の仕方も決してやぶさかではないので、一切の配慮無く一気に書き記してまいります。先んじてご寛恕のほどをお願い申し上げます。ただ、大した話はいたしません(断言)。

最後までヒヤヒヤしながら見守っていた点は、「反戦映画の薄皮を被った自己犠牲礼賛に落ち込まないかどうか」という所でした。いやあドキドキした。結局のところ、自らの一命を賭して大事に立ち向かうのが美しき日本のひとのありよう、みたいな所に行っちゃったらどうしようと。
そしたら、浩さん最後の最後まで一貫して命根性汚かった(笑) 素晴らしい。ぐねぐねぐねぐねあっち行ったりこっち行ったりぐずぐず悩み通したりと、矛盾だらけの人間としてのリアリティも良かったんですが、そこ一本筋が通っていたのが実に良かったです。そう来なくっちゃ!
そして、その部分が後からゾワゾワくるんですが、そこはまた後で。

このnoteにもたくさんの感想が置かれている本映画ですが、割とよく見かけたのが「登場人物の人間性が誰一人として一貫していない」という論。いやもうホントに仰る通りなんですけど、そこ瑕疵か?といったら全然そんなことは無かったように思います。人間なんてそうそう一貫してないでしょ、というのもあるし、何しろその「揺れる」人間達を演じる役者さんが盤石の芸達者ばかり。
「我が子を喪ったところにノコノコ帰ってきた特攻崩れの隣家のボンクラ」を恨んで責め立てる一方で、そのボンクラが拾ってきたどこの馬の骨とも知れない娘っこと赤ん坊に愛を注がずにはいられない女性を、安藤サクラが演じるんですよ。もう書いてるだけで「はいはいはい説得力説得力」って笑ってしまう。
今でいうミリオタで、うっかり「もうちょっと長引いてればなあ(俺も戦争に行けたのに)」と口走っちゃうダメダメな若いヤツ、ゴジラ掃討作戦に連れていけぬと言われて、やっぱり「どうして俺は駄目なんですか、戦争を経験して無いからですか」と明後日なダメ発言をかましてしまうユル脳だけど、最後の最後になって必死で「自分が出来る事」を考えに考えて周囲をも動かすハリキリボーイが山田裕貴。ピッタリ過ぎるでしょ、しかも巧い。

巧いと言ったら、いやあ、「北の国から」の頃は「この子このドラマと『寅さん』以外でどうやって生きていくんだろ」って大変に心配していた吉岡秀隆、上手いとか下手とか大根とか何とかを超越した「意味の分からない説得力フル装備」な役者さんになっちゃったなあとひたすら感嘆。奥底に、何かの強い哀しみをコアとした恐ろしい歪みと闇を抱いた科学者。いや、劇中「闇を抱いてる」っていう明確な説明はひとっつも無いんですけどね(匂わせるようなセリフがひとつだけ)。でも、「誰も死なない事をこの作戦の誇りとしたい」というある種のきれいごとを切々と訴える姿に、まあもう見事に強烈な痛みと闇を塗りたくって演じるという凄みが素晴らしかった。で、そんな事言ってながら、実際のゴジラ掃討戦では主艦が出る前に偵察艦ぶっ飛ばされて潰されてますからね……そして、それでも出航を命じるし、ゴジラが熱線発した瞬間「しめた」って言っちゃうし、もう闇だ……野田先生闇もいいとこだ……。吉岡秀隆が演じるからこその、その闇の韜晦っぷりが、素晴らしくも恐ろしかったです。

何なら、ゴジラ第一作の芹沢博士(平田明彦:演)にちょっと似てる佐々木蔵之介。マッドサイエンティストも行けるクチなのに、今回は木造船ぶん回してゴジラに対峙する船長さん。この人もね、ある意味「何で典ちゃん嫁さんにしてやらなかったんだ!」と浩一の襟首を掴む、というシーンのため「だけ」に居るようなもんなんですけど、佐々木蔵之介が演じるからこそ、そのブレとか揺らぎがそのまま上手い事厚みになってしまう。
浩一とは因縁のある整備兵・橘を演じた青木崇高なんてもう本当にそれですよ。事態のトリガーとなり、不在の在が浩一を苦しめ、そんでもって最後に浩一を生きて帰すというご都合主義の権化のようなキャラクター設定なんですけど、青木崇高が力いっぱい解釈して演じちゃうから「そうそう、人間ってそういう矛盾をはらんだ生き物だよね!」になってしまう。

東洋バルーン(あのロゴカッコいい、グッズ出しゃいいのに)の技術者飯田、駆逐艦「雪風」を率いる堀田艦長、いずれも異様な説得力。板垣昭夫さん演じる技術者、「あーあーあーあーあー『技術者』!『技術者』の概念がまるっと三次元になってここにいる!」だったし、「私も艦に乗ります!」だよねーだよねーだよねー!この技術者は絶対こう言うよねー!という、あたかも歌舞伎のお役みたいなしっくり感。堀田辰雄さんの艦長は、堂々とした押し出しと「折角生きて帰ってきた艦員をまた死地に連れ出そうとする自らへの痛み」みたいなものとの同居が明確。どうしようもなくひずんじゃってる野田先生の斜め後ろに居る事が多いんですが、このバランスが絶妙でした。

「人間ドラマ」の側面が強かったこのゴジラにおいて、キャスティングの絶妙さはまさに「勝因」。明らかに、この役者さんたちを揃えた時点で「勝ち」でした。主演の二人なんて、もう万言費やしたって表現のしようがない程に見事な佇まいで、浜辺美波ちゃんの「絶対死なない昭和のヒロイン」感は鳥肌が立つほどお見事でした。それがまた終局の伏線に繋がっていくという……。

帰路、同行した家族と「これだけ多世代にわたって、文理問わず『チェレンコフ光』の存在を知ってるのって、ゴジラの日本ならではだよね……」「輝度の高い青色光に問答無用の禍々しさを感じるのもゴジラ由来だよね……」と語り合ったのですが。


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