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気を付けよう!昔は痴漢、今は・・・

娘の家に遊びに行った帰り道

娘「オカン!気を付けて帰らんばよ」
私「大丈夫よ!こんなオバちゃん、誰も襲わんって」
娘「いや、襲われる理由って、ひとつじゃないからさ」
娘が案じたのは、痴漢ではなく、引ったくりだったとわかって大笑い
たしかにね
この歳で痴漢目的で襲われるなどあるわけない…ない?

▶----------追いかけて来る男

上京したての頃
満員の山手線に乗っていた時、背後で何やら怪しい動きをする男性に気づいた
不自然過ぎる密着、何とも知れない不快さに、思わず身がすくむ
え?…これってもしかしたら…痴漢?
かろうじて視界に入って来たのは「カーキ色のジャケットと白いスニーカー」
まだ、都会に慣れてなかった私
もちろん、痴漢なるものに出会ったことは、これまで一度もなかった

心臓がバクバクと、今にも飛び出しそうな勢いで騒ぎ始める
ど、どうしよう…
次の駅でドアが開いた瞬間、ホームに飛び降りた
と、「カーキ色のジャケットと白いスニーカー」の男も降りて来た

慌てて階段をダッシュで駆け上がり、反対側のホームへと駆け降りた
自分がどこへ向かおうとしているのかさえ分からないほど、完全なパニック状態
息を弾ませながら、今おりてきた階段に目をやると
ひとりの男が、こちらに向かって階段を降りて来るのが見えた

カーキ色のジャケットを羽織り
白いスニーカーを履いている
えーーーうそ!追いかけて来た…
余りの恐怖で身体が震える

ホームで立ち尽くしてる私の姿がよほど異様だったのか
駅員さんが「どうかしましたか?」と声をかけて来た
「あ、あの階段のあそこにいる男の人が…」
と説明していると
男は、こちらの様子を察したのか、身を翻し
降りてきた階段を慌てた様子で駆け上って行った

その後、駅長室で被害届なるものを提出した
恐怖体験は延々後を引き、電車に乗る度に、カーキ色のジャケットや白いスニーカーを、目にすると、息が苦しくなり、その場から逃げ出してしまいたい衝動に駆られる日々が長く続いた

▶----------ワンピースを返せ!

会社の帰り、同僚2人と山手線で有楽町へ
それほど混んではいなかったけど、3人横並びで吊革につかまりながら、OLトークで盛り上がってた
と…背後に何か怪しい気配

その日の私は、この日のためにと、買ったばかりのオーガンジーのワンピースを着ていた
濃紺のギャザーがたっぷり入ったふわふわのヤツ…

横に立っていた同僚の一人が、会話の途中で、カッと目を見開いたまま、固まっている
え?
と、後ろを振り向くと

ひとりのオジサンが、私のワンピースの裾を掴み
チャックを下ろした自分のズボンの中へ、せっせと押し込んでいる最中だった

瞬間「何してるんですかっ!」と、ワンピースを力任せに引っ張った
ファスナー全開のオジサンのズボン
え…オジサン…パンツ穿いてなかったんですね…

オジサンは、私の反応を楽しむかのように、テヘへへと笑い、平然と次の駅で下車

人は、ビックリしすぎると思考が止まってしまうものらしい
同僚2人に促されてふらふらと有楽町で降りた
頭の中は真っ白
悠長にご飯など食べに行ってる場合ではない
一刻も早くこの穢れたワンピースを脱がなければ!

駅ビルのお店に入り、その辺に吊るしてあった服を適当に買って着替えた
お給料をつぎ込んだオーガンジーのワンピースは、駅のゴミ箱へと空しく消えた

▶----------至る所に魔の手が

その日の夜は、友達と大盛りの駅で待ち合わせ
先に着いた私は、いつものように改札の横付近に立って彼女を待っていた
友達は、高校時代からの長い付き合い
JALの国際線のCAをしていた

もうそろそろ来るかなと腕時計に目を落とした時、背後から男性の声で、何か話しかけられた気がした

突然だったのと駅の雑踏でよく聞き取れず
私は、勝手に、時間を尋ねられたとばかり思い込み
「あ、今は〇時です」と答えた
すると、男性が今度は私の真横へ移動
「いくら?」と聞く
え…何時、ではなくて…いくら?…いくらって、何が?
意味が飲み込めず、目をパチクリ
「だからさ、いくら払ったら今夜付き合ってくれるの?」
今度は、やけに、はっきり、しっかり、わかりやすく、聞き取れた

「あ、私、そういうのじゃないですから」しどろもどろになりながら必死に否定
「どういうんだって良いからさ…」男性が顔を近づけて来たその時
絶妙なタイミングで友達登場!

「お待たせー!何?あなた。私の友達に何か用?」
やれるもんならやってみなさいよと言わんばかりの、彼女の勢いに圧倒されたのか
男性は何か口の中でモニョモニョ言いながら退散した

彼女は、高校の同級生だが、精神年齢は私よりもずっと大人だった
CAという華やかな仕事をしていても、決して奢ることなくいつも自然で明るい彼女は、常に人気者
そして、何よりも、美人だった

彼女と街を歩くと、決まって「ねえ彼女たちさあ~、ウチのお店で働かない?」と声をかけられた
私の場合は、こういう場面では、アタフタと逃げることしか考えられないのだけど
彼女は、とても冷静
「良いけど。いくらくれる?」と聞き
相手が時給○○円で、月にこれぐらい稼げますよ!
などと具体的金額を提示すると

「少ない!私、今だってその倍ぐらい稼いでるんで。じゃあねー」と笑いながら相手を煙に巻いてしまう
当時のCAさん、海外線は特に高給取りだったから、まんざら嘘を言ったわけではなかったよね

そんな彼女、今は親の介護のため長崎に戻って来ている
帰省した当初、精力的に就活に励んでいたけれど
ハローワークでは「あなたの職歴を満足させるような仕事は、長崎にはありません」と言われ
知人の紹介で面接に行った先では、「もう働かんでも良いやろー。良い歳なんだから嫁に行かんば!」と言われ

行く先々で散々傷ついた彼女は、「雇ってくれる所がないんだったら、自分で仕事を作れば良いだけよ」
そう言って、宅建の資格を取り、現在は不動産屋の社長におさまっている
到底太刀打ちできないほどパワフルな彼女は、結婚へのこだわりも強かった
現役の頃、商社マン、官公庁、銀行員、スポーツ選手、芸能人…数えきれないほどのアプローチがあったにも関わらず
「CAという肩書の私ではなく、素の自分を愛してくれる人に出会うまでは結婚しない」と宣言
今も、独身でいる

私に降りかかる火の粉を、彼女が毅然と払い落としてくれていたおかげで、都会での生活も何とか安全に過ごせたような気がする
ちなみに、彼女に、「痴漢に会ったことある?」と聞いたら即答で「ない!」だった
そりゃそうだよね

娘に言われたからでもないけど、夜道を歩く時は神経を研ぎ澄まし、アンテナを張り巡らせながら歩くようにしている
ひったくられないように、バッグをしっかりと斜めがけにして、ね

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