底無しのコンカー沼 経費精算から鑑みたテクノロジーと人との関係

 ここでこっそりと告白したいが、私はコンカー(勤務先で使用している経費処理ソフト)が苦手だ。先日も出張旅費精算にてこずって結構な時間を費やしてしまった。一人悪戦苦闘した後に、電話で問い合わせた先の方も確認にかなり手間取っておられ、しまいには自分で言うのもなんだが、給料泥棒している気にすら陥った。でも「コンカー難しい」と大きな声で言うのも憚られ、テクノロジーについて行けてない年寄り扱いをされることに怯えつつ(その扱い自体はさほど間違いではない気もするけど)、一人黙って悶々と格闘していたりする。そしてそういう時、以前どこかで聞いた手塚治虫の言葉が頭をよぎり、検索してみた。

コンピュータの利用度がますます増大し
て、人間は生産や頭脳労働から解放され
る、 というより、追放されるか、もしく
はコンピュータに管理される奴隷のよう
な存在に なるかもしれない。
そうなれ ば、ロボットは人間、つまりあ
なた自身のことになるかもしれませんよ。
(一九七〇年大阪万博時の手塚治虫の言葉)

手塚治虫のこの言葉には深く納得するものの、改めて読むと私の実態はちょっと違うことに気が付いた。特に勝手に引いた傍線部、私の場合は「いっそのことコンピュータに管理されたいけど、もがき続けなくてはいけない奴隷のような存在」なのだ。まさにDX黎明期に翻弄されている。一九三〇年代のチャップリンの『モダン・タイムス』(ユーチューブで全編無料で観れます!)や五〇年代のジャック・タチの『ぼくの伯父さん』(ユーチューブで三百円で観れます!面白いです!)などの映画でも機械化する世界に弄ばれている人間がコミカルに描かれるシーンがあるけれど、まさにそんな感じ。(とりあえず一緒にしてもらえると、ただのコンカー音痴の私が少し高尚になれる気がする)
ちなみに24年SSのメガトレンドは「テクノロジー」に注目が集まっている。そこでもNFTアートやブロックチェーン、クリフトパンクスという、「わからないと言ってはいけない系ワード」が並んでいる。そして「テクノロジー」に続き「カウンターカルチャー」としては、具体的には若者を中心にもたらされる社会の多様性・寛容性にフォーカスしつつ、旧来の価値観の変化を取り上げたものだ。実際に世界のファッションウィークでは多様な人種、ジェンダー、体形、年齢のモデルがランウェイを歩いている。そして近頃、疲れ知らずで不老不死のAIモデルなども活躍中だ。一九〇三年に開かれた大阪博覧会では沖縄、アイヌ、台湾、インドなどの人たちが「展示」される事件が起きたが、その当時と比べると確かにダイバーシティは進んだのだろう。

とは言うものの、三つ子の魂を持つ人間ってなかなか変わらないのも事実。DXに馴染めない人もいるし(アタシ?)、ダイバーシティが声高に叫ばれる中、性差別も人種差別も根深く残っている。(トレンド最前線で活躍していたYe(イェ)こと、カニエ・ウェストの人種差別発言もニュースとなっていたが、自身もアフリカにルーツを持ち、黒人解放運動家の母に育てられた彼の場合は複雑な事情も絡んでいるのだろうか)

後日談的に、実は少し前にコンカーからメールが届いた。「先日の出張精算の電車代とホテル宿泊代が自動で統合されていたため、再度精算して下さい」と。正直言って深いため息と共に涙が出そうになった。底無しのコンカー沼にどっぷりはまり、先月退職された前部長と同じく「コンカー恐怖症」を患い中です。

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