ブレシア 音楽のある5日間
旅すると、空を仰ぎ、風を感じることが多くなる。そんな時、私はフランス・クリダ先生のことをしばしば思い出す。
それは熱情ソナタの第3楽章に差し掛かった時だった。クリダ先生は高らかに言った。「風を感じて。ベートーヴェンは風の中にいるのよ」と、並列したピアノで弾き始めた。すると音楽は、その場の空気もろとも、ヴァルキューレたちが岩山に向かうような緊迫した臨場感がみなぎった。いつもそうだったが、先生の指からは風が起こり、気流が世界を作り出していた。
彼女がアントワーヌ・ブールデ