見出し画像

「マンガ家になれるよ。」


私はマンガ家になりたかった。


きっかけは中学生の終わり頃、イラストだけが趣味のオタク少女が『バクマン。』というマンガに出会った。本気でマンガ家を目指す少年たちのリアルな葛藤を描く物語で、『デスノート』で知られる原作=大場つぐみ、作画=小畑健コンビが描く、もう一つの作品でもある。

これに感化された私は、高校一年生の夏、マンガの専門学校に入り浸っていた。夏期限定で開催される無料体験講座がたくさんあって、学生集めに奔走してる専門学校は連日のように講座を開く。実はこの時点で大学の志望校を決めていたのだが、それを隠して、こっそりとマンガを習いに行った。

今までに描きためたイラストや、キャラクターデザイン、四コマ漫画を専門学校の講師に見せると、一つひとつの作品に、丁寧にアドバイスをくれる。
「このキャラの良さを見せるには、こういうストーリがいいんじゃないか」
「物語を動かすにはキャラクターを動かせばいい。キャラが心に何を抱えているのか考えてごらん」
という感じに、分かりやすく教えてくれた。

何回も足を運び、マンガを学んで分かったことは、マンガ家は体力勝負だということ。一本描くだけでも一ヶ月はかかる。何もしてないように見える時でも、マンガ家は常にアンテナを張り、日常の中で触れる出来事のなかで、ネタ探しを怠らない。マンガに明確なゴールはないから、思考体力の続く限り、より高みを目指して作品のアップデートを続ける。そして一本と言わず、何本も何本もマンガ作品を生んでいく。

マンガ家になれるのは、それを続けることができた人だけだ。逆にそれを続けさえすれば、マンガ家への道は誰にも開かれているとも言える。専門学校に通い詰めた夏休みの終わり、私はとある講師に言われた、

「君の今のレベルを見るに、あと8本。あと8本、出版社に投稿すれば、マンガ家になれるよ。」


講師に会うのは、その時が最後となってしまった。
あれほど熱くなったのに、今私がマンガを描いていない理由は、その翌年、高校二年生の夏にデザインと出会ってしまったからだ。
しかし、デザインと出会うまでのおよそ一年の間、私は一本としてマンガを仕上げることはなかった。結局私は、マンガ家になれる人間ではなかったのだと思う。
でもたまに、背を向けたはずの私に、あの時の講師が心のなかで語りかけてくる。 

「あと8本描けば、マンガ家になれるよ。」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?