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「君のことをなにも知らない」

君のことをなにも知らない。
1週間ぶりに会った彼と、ホテルで1回目のセックスが終わったあと、そう言われて驚いてしまった。こんなに私の身体のことを知っているのに、なにも知らないなんてことある?って。
あなただけが、こんなに私をご機嫌にも不機嫌にもして、私の感情のコントロールを私から奪っているのに。気持ちいいことだってそう、あなただけが、こんなに私を気持ちよくしてくれるのに。
そう一通り考えたあとに、ふと彼の知らないって発言は、相対的に見たときに私のことを知らないってことなんだと気づいてしまった。彼には他にも身体を許してる女性が何人かいて、その中によく知っている女性がいて、私なんてその人から比べると彼の私生活に全く寄り添ってなんかいないんだ。

私は、彼の私生活に入り込まないことが全く嫌ではなかった。私にも踏み込まれたら困ることもあるからお互い様だと思っていた。けれど、どんな形であれ、他と比べられたことにものすごく腹立たしくなって、その場で服を着た。シャワーも浴びず、ましてや、ホテルの滞在時間が余っているのに、帰る支度をしているから、彼がどうしたの?なにをおこっているの?って。そう言われても、全然うまく説明できないし、伝わる気もしないから、怒ってはいないって答えて。彼がじゃあもう一回しようって後ろから抱き締めてきたけれど、そのときの彼の腕は、もう私の知っている彼の腕じゃなくて、さっきまであんなに好きでセックスも今までたくさんしてきて彼を知った気になっていたけれど、私だって彼のことをなにも知らなかったんだ。それでよかった。それでよかったのに、彼には私よりももっともっとよく知っている女の子たちがいっぱいいることを知ってしまったら、私の居場所がなくなったみたいになって、ぽっかり穴があいて、それはもう彼とのセックスじゃ埋まらないって気づいた。ううん。最初っからセックスでなんて埋まらなかったんだ。それを知っていたのに知らないふりをしていた。

もう一度彼とセックスしたけど、もうそれは彼を知らなかったことに気づいたあとの行為でしかなくて、同時に他の子と私を、私と一緒の時間に比べた彼が憎くて好きだけど嫌いになった。帰り際に次いつ会う?って言われたけど、予定みてからね、って答えて帰った。彼が好きだった。他にもたくさんの女の子がいてもよかった。でも比べられたくなかった。どんな小さなことでも比べられたら終わりだった。自信のない自分。でもこれが今の私でそれを彼は知らなかったんだ。

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