お父さんのこと。

ごめんなさい。お父さん。ごめんなさい。
あんなふうに、死なせてしまったこと。
私たちが、死に追いやったようなものだよね。
追い詰めてしまった。
死なれるまで、自分のしていることに気づけなかった。
お父さんが死んだことで、まるで霧が晴れるように、全てがクリアになった。
なんという皮肉。
でももう取り返しがつかない。
お父さんはもういない。
いなくなって、5年も経ってしまった。
もう二度と会えない。
あともう少し、生きていてくれたら、和解できたかもしれなかったと思う。
でももう、その日は永遠に訪れず、一生、伝えることはできない。
この5年間、何も書けなかったのは、向き合うのが辛かったから。
お父さんの死に。その責任に。後悔に。痛みに。
向き合ったら、前に進めないような気がしたのかもしれない。
自分のせいだと、心のどこかで分かっていたから。殺したようなものだと。
罪は消えない。この先、ずっと。
追い詰めてしまったこと。傷つけてしまったこと。
ひどいことをしてしまった。人として。家族として。
そう思ってしまったら、私も生きる気力がなくなってしまいそうだったから。
私が愚かだった。間違っていた。
今なら分かる。
お母さんは、世間知らずの未熟な女性だった。
夫のことも子供のことも、大きな愛で包めるタイプではなく
むしろ自分が子供のように愛されたい人だったんだと思う。
そのことに気づけなかった。
お母さんが、かわいそうだと思ってしまった。
お母さんを幸せにしないお父さんを憎んでしまった。
でもそれは間違いだった。
途中で少しだけそれに気づいていたけど、その時にはもう後に引けない感じになってた。
今にして思うと、お父さんもお母さんもあの頃、異常だった。
お父さんはきっと、アルコール依存症という病気だったし
お母さんも更年期その他での精神的な不安定さがあったのかもしれないと思う。
そういうふうにあの時思えていれば、もっと冷静に2人に対応できたかもしれない。
でも当時は分からなかった。
分からずにお父さんを責め、お母さんの味方をしてしまった。
そしてそれが、日常に定着してしまっていた。
そういう意味では、私も異常だった。
ごめんなさい。取り返しのつかないことを、私はしてしまった。
でもお父さんが死んでしまって、私はやっと目が覚めました。
いかに自分の日常や、家庭環境が、異常だったか。
お母さんの情報が、偏っていたか。
そしてお父さんが死んで、お父さん抜きで結束してたはずの3人は、見事にバラバラになりました。
それはもう、見事としか言いようがないほどに。
はじめに最もはっきりと、拒絶したのは私です。
全てがはっきりと見えた以上、もう、うんざりだった。
これから先もお母さんの「私は悪くない」「私が正義」という話を聞かされるのは。
死んでなお、生きている時と同じようにお父さんの批判をするのを聞かされるのも。
私は死んでしまったことで、憑き物が落ちたように見方が変わったのに、お母さんは変わらない。
もちろん変わらないのは自由だけど、それに同調したくなかった。
お母さんの価値観に合わせ、付き合ったせいで結果、お父さんを死に追いやってしまった。
そう思ってしまった私にとって、もうこれ以上、お母さんの価値観に振り回されるのはごめんだった。
「お父さんは自分の不摂生がたたって死んだ」
それがお母さんの言い分だろうし、世間の見解だ。
でも私は違う。そもそもお父さんを不摂生に追い込んだのは私たちだ。
お父さんから、生きる希望や、自分をケアする気力を奪った一端は、私たちにもある。
その考えは、決して消えないし、消すつもりがない。
けれどお母さんは決して認めないと分かっている。
だから縁を切った。
私はもう、自分に嘘をついて生きていきたくないから。
誰かの価値観に染められたり、振り回されたりしたくないから。
私が家族と縁を切ることを、お父さんは決して望まないだろうということは分かってる。
でもそれ以上に、私が思うように生きて欲しいと思ってくれるに違いないと信じてる。
私のしてることは、賢いやり方じゃないだろう。むしろ愚かだろう。
お父さんを拒絶したままお父さんに死なれて、こんなに後悔しているのに、
お母さんのことも拒絶したまま時が流れて、このままお母さんが死んだら
また、お父さんの時と同じように後悔するのかもしれないじゃないって思う。
そうかもしれない。
それでも。
どうしても。許せないのではなくて、譲れないのだ。
自分の考えを。
それを曲げて、あるいは隠して、お母さんに歩み寄ることができない。
お母さんは、自分から歩み寄れる人じゃないと分かっているから、
和解するなら、私が歩み寄る以外にないから。それができない。
今までごめんと言えない。
だってごめんと思っていない。
むしろ、私はお母さんにごめんと言って欲しい。
夫婦の争いに、あなたを巻き込んでごめんと。
結果的に、後味の悪い別れをさせ、嫌な思いをさせたねと。
でもお母さんは決して、決して、そんなことを私に言うことはない。
分かってる。
自分は悪くない、と思ってる。お母さんはそういう人だ。
私は巻き込んでなんかない。あなたはあなたの考えで、お父さんを嫌ったんでしょと。
私はそこは関係ないわよと。
だから、きっともう会うことはない。
死なれてまでもなお、そおういうふうにしか思えない人と、
たとえ親であっても、気持ちが通じ合えないと思うから。


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