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心のままに、荒野を行け

私は漫画を描く反面、勿論、読むのも大好きです。
今まで生きてきた中で、どれだけの作品を読んできたか、いちいち覚えていないくらいです。

私の好きな漫画、漫画家先生が何人もいますが、今日はご存知、大家の浦沢直樹先生の作品について語ろうと思います。

浦沢先生といえば「YAWARA!」「HAPPY!」その他代表作がありすぎて、正直どれが代表作なのかわからないぐらいの名作ばかりを世に送り出しています。

もし、どれか好きな作品を選べと言われたら、私は「MONSTER」「20世紀少年」が好きです(YAWARA!、HAPPY!も好きですよ、引っ越しの際に手放してしまいましたが)

特に上記2作品は大好きで、コミックスは全巻持ってますし、大事にとってあります。

だいぶ前ですが、浦沢先生はNHKの「プロフェッショナル~仕事の流儀~」に出演されていました。その時、浦沢先生がどんな風にしてお仕事されているかを密着取材されていて、お仕事中も、プライベートでも、とても楽しそうにされておいでなのが印象的で、浦沢先生の回だけは、DVDを買って、今も持っています。

プロフェッショナルの時は、20世紀少年のラストのあたりを描いていて、その他「PLUTO」の作画もされておいででした。ちょうどあの時、浦沢先生は肩を脱臼し、連載を中断せざるを得なくなり、壊れた身体にムチ打って、ようやく連載を再開して、20世紀少年のラストを執筆されていました。肩を脱臼するほどものを考えるってどんなかと、想像もつきません。私などまだまだ甘いですね。ここがプロと、お遊びでやっている人間の差です。

20世紀少年のラスボス「ともだち」が死ぬシーンを描いていて、主人公・ケンヂがそれを見ていたところで「これは良い顔描けましたね」と仰ってました。ケンヂは浦沢先生の分身と仰ってたので、浦沢先生ご自身はきっと、ケンヂをとにかくカッコよく描きたいという気持ちがあったのではないでしょうか(笑)(実際、浦沢先生ご本人に聞いた訳ではないので、私の憶測ですが)

浦沢先生の作品は、ブレーンである長崎尚史さんという方とアイディアを出し合い、それをすり合わせ、合致したら、浦沢先生が作業するというスタイルらしく、長崎さんの立場としては、とにかく漫画が売れないと困る、読者が離れていくのは困ると、あくまで読者が何を望んでいるのかを考え、読者の立場でものを言うので、浦沢先生が望まないこともおそらくは言うのでしょう。

当時、読者は、教祖「ともだち」の正体は誰なのかに興味を持っており、長崎さんはともだちの正体をはっきりさせるべきと主張されておいででした。
私も「ともだち」の正体は本当は誰なのか興味はありましたが、ラストは結局、ともだちが誰だったのかはっきりしないまま終わりました。あれはあれで良いとは思いましたが、あのラストに目くじらを立てた読者も少なからずいたと思います。

プロフェッショナルの取材中も、浦沢先生ご自身も「自分の思い通りにならないと怒る人がいるからね(苦笑)」と笑っておいででした。私の憶測ですが、浦沢先生ご自身、ともだちの正体が本当は誰だったのかなんて、どうでも良かったのではないかと思います。あくまで自分の分身ケンヂをカッコよく描ければいいや、くらいに思っていたのじゃないかと。(実際、20世紀少年は推理もののつもりで描いてたわけじゃないと仰ってたので)

実際、連載を再開されたとき、ともだちの正体は誰なのかではなく、ケンヂのライブのシーンから始まっていました。ケンヂがレスポール(ギター)を片手に持って「歌わないんだ。」と前のめりに歩いてくるところから始まっていて、カラーの見開きイラストでしたが、あのケンヂはそれはそれはカッコよくて、浦沢先生がこだわっただけはあったと、ただただ説得力しかありませんでした。原画はめちゃくちゃ美しく、圧倒される出来でした。「俺にこんなの描けちゃうのって思いますもんね、描けちゃうときって」と自画自賛されてましたが、それだけの出来でした…

「PLUTO」の作画風景もプロフェッショナルの放送中にありましたが、ブレーンの長崎さんとのすり合わせが終わったらネームの作業です(ネームとは、台詞、コマ割り、人物の配置などを簡易に描きだす作業で、これで最終的な出来が決まると言っても過言ではない作業で、描き手の腕が試されるものです)ネームの段階で、とても綺麗でした。仮にも同じく漫画を描く身である私の目から見て、ネームであんなに綺麗なのかと内心とても驚きながら見ていました。(私のネームは汚いので、とてもじゃないですがお見せできません笑)

好きな音楽もかけず(浦沢先生はロックがお好き)一人、作業部屋にこもってネームの作業です。あの天才・浦沢先生が苦しみながらようやくネームは出来上がり、FAXで送り、それから原稿用紙に描きだします。

ある程度作業が進んでいたのに、ダメ出しの電話がかかってきていました。バーン!と机を叩くシーンで「ロボットがこんなことしますかね?(PLUTOは鉄腕アトムのリメイクですので)これ人間ぽすぎませんか?」とのこと(笑)私は内心、だったらそれ、ネームの段階で言ってあげたらいいのにと思いました。浦沢先生はあっさり、その修正を受け入れ、描き直していました。

ブレーンの長崎さん曰く「(浦沢先生は)創作の神様がもしもいたら、その神様の前で物凄く素直な人なんです」とか。まあ、本当は、浦沢先生も自分の描きたいものを自由に描きたいとお思いでしょうが、浦沢先生は仕事ですから、やはり漫画が売れないと漫画も描き続けられなくなりますし、100%楽しいことばかりではないでしょう。

結局、長崎さんの仰る通り「そんな強気で商売しない方がいいよ」は本当で、読者が離れていってしまったら、長崎さんも困るし、何より浦沢先生ご自身も困るわけで。だから、どの作品も、100%満足のいくものが描けているかと聞かれたらきっと否でしょう。他の漫画家先生たちもきっとそうだと思います。だから長崎さんも苦言を呈しているのだと思います。たまに作中、長崎さんがモデルと思しき人物が出てきますが、浦沢先生も長崎さんに対して、頭で解っていても、コンチクショー!と思うところがあるのかも知れません(笑)それとも単に、遊び心で長崎さんを登場させているのかはわかりませんが。

でも、プロフェッショナルの取材中、浦沢先生はとても楽しそうで、スタッフさんたちと作業してる間も、仕事場のルールは「なんか面白いこと言え」だそうで、絶えず笑顔でした。これだけ楽しく仕事できたら、スタッフさん達も大変な部分もあるでしょうが、きっと精神衛生上も良いのではないでしょうか。

浦沢先生はロックがお好きで、ボブ・ディランをこよなく愛し、ディランに憧れてやみません。ボブ・ディランは、ある時期、ロックに転向し、裏切者!と罵声を浴びせられながらもロックを歌い続けた孤高のロッカーです。

浦沢先生が大事にしているディランの一節にこういう言葉があるそうです。
「心のままに行け、最後はきっと、うまくいく」

私はボブ・ディランの音楽を聴いたことがありませんし、Wikipediaで読んだ程度でしか知りませんが、この一節は深いなと思いました。

浦沢先生は、プロフェッショナルとは、と聞かれ「締切があること」と答えておいででした。「それについて、最善の努力をする人のことじゃないかしら」と。漫画は好きだが、あくまで商売なのだと、ちゃんとわかった上でお仕事されておいでなのだ、その姿勢はとても謙虚と思いますし、この方はすごいなぁと、終始感慨深かったです。

あの当時で、5億冊を売った男とテロップが出てましたが、あの当時で5億冊なので、おそらく現在はもっとだと思います。いま連載中の「あさドラ!」もコミックス楽しみにしています(私はコミックスを待つ派です)

あまりに大家で、語るのはおこがましいとは思いましたが、どうぞお許しください。

「MONSTER」のラストも、ヨハンがどこかへ消えてしまって終わりましたが、そんなことも些細なことですね。むしろこれから先も、浦沢先生の描きたいものを自由に描かせてあげて下さいと願います。

ちなみに、私が浦沢先生ご自身に対して抱いた印象は、とても笑顔がチャーミングで、明るく、遊び心もサービス精神も旺盛で、ちょっと少年のようなところもあって、とても素敵な方だなぁという感じです。

この表情は、ゾっとした


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