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小説:みんなで美味しく召し上がれ【1253文字】

 僕は料理が好きだ。僕をあわせて四人で同居しているけれど、四人分の食事はすべて僕が作る。それぞれ好みがあるし、みんなワガママだから大変なときもあるけれど、みんなの好みにあわせて料理をするのは、実はけっこう楽しい。
 さて、今夜のメニューは何にしようか。冷蔵庫を探りながらメニューを決める時間が、自分の力量を試されているようでウキウキする。よし、今日は寒いし、鍋焼きうどんにしよう。

 ケイ君が風邪っぽいと言っていたから、ネギと生姜をたっぷりいれて薬膳風にしよう。ケイ君は医者を目指して勉強しているというのに、自分が風邪をひいてしまうなんて【河童の川流れ】というやつだな。
 みゆきちゃんは、フォトジェニックなものがお好み。そうだ、最近テレビで、大根おろしでモアイ像を作って鍋に入れる、というのがあったな。あれを作ってみてあげよう。昨日ピアスを失くした、と落ち込んでいたから、大根おろしのモアイ像に飾り人参でピアスをつけてあげよう。喜んで写真を撮るかもしれない。
 ササちゃんは酒好き。酒さえあれば文句は言わない。今日はこの酒にしよう。【ニンジャが仕込んだ幻の酒】なんていう珍しい日本酒を手に入れたのだ。熱燗がいいかもしれない。

 僕は鼻うたを歌いながら料理を作る。コシのあるうどんが黄金色の出汁の中で煮込まれていく。ネギと生姜のいい香りが漂う。醤油とみりんで味を調えて、卵を入れて、月見にしよう。足元に黒猫のクロがすり寄ってくる。僕は出汁をとったかつおぶしの残りをクロに少し食べさせてやる。んにゃあ、と言いながら食べるクロ。猫は本当にかわいくて癒される。卵が半熟に煮えたところで、完成だ。

 僕は、ひとりダイニングテーブルに座る。目の前の卓上コンロの上では熱々の鍋焼きうどんが煮えていて、その中心に大根おろしで作ったモアイ像が鎮座している。なかなか美味しそうで、おもしろい出来栄えだ。

 さて、誰から声をかけようか……と逡巡しているうちに、全員一緒に起き出した。
「おーうまそう」
「モアイ! めちゃかわいい! ピアスしてるう!」
「おお、これは高価な日本酒ですね。わかっていらっしゃる」
「ちょっと待てよ、まずは鍋焼きうどんだろ? 伸びちまう」
「待ってよ、写メ撮らせて! モアイちゃんが崩れちゃう」
「いやいや、まずは食前酒でしょう」
 食事を前に喧嘩が始まる。もう、仲良くしてくれよ。口はひとつしかないんだから。僕は、僕の中で同居しているほかの人格たちに声をかける。
「お前は食べないのか?」
 ああ、君たちが満足してからでいい。胃だってひとつしかないんだから。君たちが満腹なら、僕も満腹なんだよ。自分の中の人格たちに話しかけながら苦笑する。きっと僕たちは永遠に離れられない。わかっているけれど、やっぱりちょっと大変だな、とため息をついたら、クロが足にすり寄るから、僕はクロを優しく撫でた。


【おわり】

使用したお題
「永遠」「鍋焼きうどん」「ニンジャ」「河童」「黒猫」「うた」「日本酒」「モアイ像」《叙述トリックの使用》「ピアス」

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